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人を好きになるということ
橘が吉岡に好意を持っているとしたら、すぐ指輪に気付くはずだ。
そうしたら橘はきっと傷つくんだろうな。
俺のネガティブ妄想は、一瞬で思考を三年前にタイムトリップさせる。
ベランダからカラカラと音を立てて入ってくる吉岡の指には、他の男に贈られた指輪がはまっている。『彼氏にもらったんです』そう言って頬を染める吉岡。『この子は彼氏持ちなんだから、惹かれちゃいけない』と言い聞かせながらも女神・吉岡の魅力に抗えるはずもなく、俺はどんどん吉岡への思いを募らせていく……こんなの拷問だろ!?
橘が吉岡に好意を持っているというのが杞憂だったらいいんだけど……。
俺は田代の横で熱心にみんなの話を聞いている小柄な橘の姿に心を痛めた。
人を好きになる気持ちっていうのは止められるものじゃない。だけど、その思いが通じるかどうかっていうのは、自分の気持ちとは全然別のところで作用する力に影響される。
相手に付き合っている人がいようとも、好きな人を手に入れるために頑張ると朝宮は言っていた。この考え方は俺とは違うから、俺には受け入れられないけれど、彼女たちにとっては至極当然なことなんだろう。
多分橘は俺に似てるから、好きな人の幸せを祈りながらそっと身を引くんだろうな。
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