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ハルと倉田さん
「いいのいいの! 3年生は主役、ハルちゃんたちはお客様よ! 今日は後輩くんたちに手伝ってもらうから大丈夫」
「えっ? でも……」
正直仕事が与えられていたほうが楽なのにと思いながら言い淀んでいると、スミレさんはニコッと微笑んだ。
「今日はみんなの名前を覚えなきゃいけないから! 一緒に作業しながらお話して、顔と名前と話した内容を関連付けてインプットするの。人の名前を覚えるにはそれが一番効率的なのよ!」
スミレさんはそう言って私にウインクすると、パコソン部の後輩くんたちを引き連れて階段を降りていってしまった。
期せずして、私はソファに倉田さんと並んで座ることになった。
「パワフルなお母さんねぇ。湯浅くんとは正反対って感じ!」
パワフルな倉田さんにパワフルと言わしめるスミレさんは確かにエネルギッシュだ。
「でも湯浅くん、普段おうちではスミレさんと対等に言い合ってるよ。割と親子で似てるとこあるかも」
紅茶を淹れたいスミレさんと勉強したい湯浅くんの攻防戦が思い出されて、思わず思い出し笑いをしてしまう。
「へぇ、そうなんだぁ」
倉田さんは無難な相槌を打ってくる。あっしまった、今日初めて湯浅君の家に来た倉田さんに、疎外感を持たせちゃったかな?
探るように隣の倉田さんの表情をうかがってみる。倉田さんは別段気を悪くした様子もなく、広瀬くんたちとしゃべっている湯浅くんの後ろ姿を見ている。
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