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第16話 害悪なおっさんは、壊れた道具より厄介
「何処まで……何処まで非礼なのか貴様は! 貴様のような平民と変わらぬゴミ、ここで処分しても書類1枚すら書く必要がないのだぞ!?」
「ほう、ゲルティ侯爵閣下の目には、俺が非礼に映りましたか?」
「当たり前だろうが! ここが王城なら、間違いなく手打ちにしている!」
結局は――他人の力に依存か。
王城なら、許可無く剣を抜けば国家全体を敵に回すから、安心して権力を行使出来るもんね。
「そうですか、無礼ですか。それならば――俺は正しく鏡として機能していますね」
「か、鏡だと?」
「ええ。他人は自分を映す鏡と言うでしょう? つまりゲルティ侯爵閣下の非礼な言動、これまでの行いが、そのまま跳ね返って来ているのですよ」
「こ、この……。衛兵、この者の首を――」
「――言いましたよね? 俺は他人の言動を映す鏡。非礼には非礼で――武力には武力で応じます。……俺が人を斬る事に躊躇いが無くなるスイッチが入るる前に、その言葉は引っ込めた方が良いと進言しますが?」
ゲルティ侯爵は、グッと呻るように発言を止めた。
自分が既に、俺の間合いへ入っていると気が付いたのだろうか?
どちらにせよ――ここにいる者では俺を止められない。
若者が軽挙に走るのは、有りがちだけどね。
軍全体の指揮官と言う立場上、若さを誇るのは卒業した方が良い。
見聞きや経験から学ぶ姿勢ぐらいは見せた方が――利口で、立場に相応しいね。
ジグラス王国軍では誰も止められず、王都寸前まで一挙に占領して来たラキバニア王国軍。
その最前線を担っていた軍の指揮官と将軍の首級を単身で上げたのが、一体誰なのか。
俺だけの力ではないし、驕るつもりはない。
しかし、討つだけの力を有している事実は事実として、指揮官は受け止める必要があるだろう。
「ひっ……」
俺の眼光に射竦められた事でやっと現実が理解出来たようだ。
流石にラキバニア王国の将軍を傍に置いた状態よりも堅牢な警護体制だと驕る程、アホではなかったようだな。
うん、残された時間は少ないかもしれないけれど……学んで活かせば良いよ。
まだ若いんだから。
それにしても……酷い怯えようだな。
まるで化け物を見るような眼じゃないか。
いや、それも当然かな?
俺の内面と外見のギャップ――乖離は、さぞかし気持ちが悪い違和感だろうからなぁ。
無愛想にも近い無表情だけど時に可愛らしいエレナさんの持つギャップとは、天と地の差だ。
おっと……。
おっさんになると説教が長くなっていかんね。
さっさと本題を詰めて、このように不快な場所からは去ろう。
「そうそう。重要拠点へ奇襲する兵の話でしたね? エレナさんの魔法兵が100名。全員に馬をお願いします。後は――騎兵200名を、お預けくださいませんか?」
「……良いだろう。本来なら300名の指揮は中級士官以上で無ければ許されんが――私の権限で、貴様を中級士官へと任官してやろう!」
一瞬、その言葉にササ伯爵が動揺するが――思惑に気が付いたのか、下卑た笑みを浮かべた。
「な、成る程! 流石はゲルティ侯爵閣下! 戦場で戦死した上官に代わり戦時任官されるのは、良くありますからね。勿論、昇進とは責任を伴うものではありますがねぇ~」
全く……自軍が崩壊寸前、国家滅亡の危機だと分かってないのかねぇ。
このお坊ちゃまたちは……。
上手く行けば、昇進させ指示を出した自分の手柄。
下手を打てば求められた職責を果たせなかった責任を取らせる為の――戦時任官。
人を使い捨ての便利な道具のように扱うのは……もうこびり付いて取れない、長年の癖なのかな?
「今一度言いますよ、ゲルティ侯爵閣下、そしてササ伯爵? 疲れ果てても身体中が重く痛んでも――己が信念を貫き歩み続けている。そんな誇り高きおっさんを――舐めないで頂きたい」
椅子に座っているゲルティ侯爵もササ伯爵も、おっさんの凄み如きでたじろいでいる。
2人ともが一足一刀の距離に居るからね。
俺から重圧ぐらいは感じているんだろう。
戦場に立ち武器を持つ者と、命を賭けた立ち会いもした事がないんだろうなぁ。
そこで敵に立ち向かうだけでも、どれだけの度胸が必要になり、度胸が磨かれると思っているのか。
折角の機会だ。
高みの見物を決め込む御身分の方々に――歴戦のおっさんの圧と言う物を、味わっていただこうか。
「俺たちは意志と誇りを持つ人間です。間違っても――便利で替えの効く道具だと思わないでくださいね? 仮に道具だと侮れば……用い方を誤った者が、怪我をする羽目になりますからなぁ」
「あ……ぐ、ぬぅ」
如何に身分を傘に偉ぶっていても、偉い事を成し遂げて来たわけじゃない。
所詮、この程度の威圧に屈する小物か。
やはり動乱の世を生き抜いておっさんには、至れないかな?
さて……。
如何に民や兵を犠牲にさせず――ジグラス王国を滅亡させるか。
それこそが、俺の武士としての有り様としては正しいのかもしれない――。
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