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第17話 若さ故の衝動、か
兎に角、300名を指揮するに相応しい中級士官への任官。
そして兵を貸していただける確約はもらった。
もう、この不快な場に用はない。
「――それでは、お預かりした兵を確認次第、任務に当たらせていただきます」
「き、期限は1週間だ! 良いな!?」
怒鳴り散らすようにゲルティ侯爵閣下は言う。
怒りを声にして発憤しているのか。
周りの人や物に当たり散らすおっさんからは、人も物も離れていくぞ?
「かしこまりました。ああ、忘れてた。俺の報酬として求めた願いですがね……。勇敢に戦った敵の遺体は、丁重に弔うか敵軍へ返還して頂きたく存じます。――それでは、失礼」
深々と礼をして、俺はゲルティ侯爵たちの前から立ち去る。
俺の後から、エレナさんも追いかけて来ている。
そうして大本営から怒鳴り声と物が壊される音が聞こえて来て――やがて怒鳴り声も聞こえなくなるぐらい歩いた頃。
「――いやぁ、俺もまだまだ若いですな。後先も考えず、若い衝動に任せて言ってやりましたよ?」
冗談めかして、そうエレナさんに話しかける。
ここまで、まるで葬式のように重い空気だったからな。
少しは空気を和ませなければ。
「……ルーカスくん。随分と気持ち良さそうに説教してた。……元々、ジグラス王国は腐ってる。でも、相次ぐ戦死で経験もない身分だけの当主に変わって……。私も言いたい事が爆発しそうなぐらい、溜まってた。それでも、私には言えなかった。だから、お陰でちょっとスッキリ」
「はははっ! それは何よりですな。口は災いの元とも言いますが、溜め込み過ぎては破裂してしまいますよ?」
「……ん」
エレナさんは少しだけ朗らかな表情になり、嬉しそうだ。
それ程、この国の有り様には鬱憤が溜まっていたのだろう。
魔法師団の団長として中枢に近い位置にいるなら、その権力の腐敗をより近くで目の当たりにしているだろうからねぇ。
記憶にある限り――ここまで侵略されて行く様も酷いものだった。
勇敢な兵や民から死に、現実的な論者は処刑されるか最前線送り。
その結果――ラキバニア王国が当初想定していた以上に深くまで攻め込まれる事態だ。
敵が想定する以上に弱かったなんて事実、権力者たちは恥ずかしくないのかな?
おっちゃんは恥ずかしいよ?
間違っても――ジグラス王国は終生仕えるには値しない主と権力者が統治する国だ。
とてもじゃないが、俺の命と刃を預けられない。
一先ず目の前にした腐敗の象徴を生で見て――一言に纏めるならば、だ。
「あの若造共には言いたい事が沢山ありました。ですが――五字にていわば、上を見な。七字にていわば身のほどを知れ」
「……え?」
「おっちゃんの悪い癖ですよ。長い説教になってしまいましたがね? 分かりやすく会話を纏めればば、そんな所でしたな。いずれにせよ、先ずは自分のやるべき事をやらねばです。はははっ!」
「……ルーカスくん。これからどうするつもり?」
心配そうな色合いが混じった目で、エレナさんは尋ねてくる。
ふむ……。
優しい子だなぁ。
こんな優しくて良い娘を、このようにくだらない戦場で死なせてはならない。
やはりこのエレナさんやテレジア殿のような者たちの為にこそ、俺の武士としての刃を振るわねば!
義を果たす為と自分自身で覚悟を決めたなら――我が命は、我が身我が信念を果たす為の消耗品だ。
死して不朽の見込みあらばいつでも死ぬべし。
生きて大業の見込みあらばいつでも生くべし。
この言葉は本当に素晴らしい。
俺の歩む人生と言う道で、何度も背を押してくれる。
この言葉を引き出す時、死すべき所は何処なのかと尋ねた御仁も素晴らしかったが……。
全く、そのように立派な志を持たれた方々。
生前では是非とも、お会いしたかった。
この世界でも似たように尊敬が出来る御仁に会うことが出来るだろうか?
護りたい人、そして尊敬が出来る人……。
恋の道……恋愛とは縁が無かったが、それらは別々に切り離して考えるべきものなのだろうか?
もしかしたら――。
いや……。
色恋について考えるのは、さっさと戦を終えてからだ。
生きてないと、恋も何も出来ないのだからね――。
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