第20話 耳が痛い

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第20話 耳が痛い

 その後、2人が異常な程に丁寧(ていねい)な説明をしてくれたお陰で、2人の仲が良い理由が分かった。 「はははっ! なんだ。学園の実技を共にしたり冒険者パーティを組んでいたから、これ程までに仲が良かったのですか!」 「そう。ジグラス王国の学園制度はメルダニア帝国の模倣(もほう)。私たちは満12歳以上の者が3年間通う王立学園の導入教育課程(どうにゅうきょういくかてい)で一緒」 「エレナさんは一部課程では飛び級をしている優秀な方なんですよ。下手したら満15歳以上が通う高等教育課程まで、飛び級してしまいそうなぐらいです」  成る程。  制度自体は知識として記憶にはあるが、俺は貴族以外の通う下院クラスだったからなぁ。  それでも金はかかるが……。  親が爵位(しゃくい)持ちなら、王国が少し補助金(ほじょきん)を出してくれていたようだ。  準男爵家(じゅんだんしゃくけ)でも通えていたのは、教育を充実させようと言う国策(こくさく)のお陰か。  この制度を作った先人には、深い感謝と敬意の感情を抱く。  しかし昨今のジグラス王国では、国庫(こっこ)心許(こころもと)ないのに制度を変えてないのもルーカス・フォン・フリーデンの知識にある。  虚栄心(きょえいしん)か、(ある)いは国王が同じ『ヴァン』の名を持つ帝国の制度へ対抗心を燃やしているのか……。  いずれにせよ早く戦を終わらせて……学園で武士道や恋の道について、ゆっくり探求をしたいものだ。  このお2人のように素敵な関係の人々を近くで見て聞いて学べば、少しは恋の道も分かる気がする。 「いやぁ~。てっきり、お2人は素敵なパートナー同士だと勘違いしてしまいましたよ!」 「もう! ルーカスさんは……その、あれです!」 「そう、あれ」  あれと言われましても……。  察しの悪いおっちゃんには、分かりませんよ? 「いやぁ~……。年齢を重ねておっちゃんになると、ついつい人の色恋話(いろこいばなし)が気になってしまうもので……」 「また年齢の話ですか。ルーカスさんがおっちゃんなら、私たちもおばちゃんです!」 「おっと、その発言は方々に敵を作るので止めた方が良いですよ? これ程に水を弾くような美しい肌をしたお2人がおばちゃんなどど……謙遜(けんそん)にしても過ぎると言うもの。(くち)()けても言う物ではないですな!」 「その言葉、ルーカスくんにそのまま返す」  ああ、そうだった。  俺も肉体は、若きルーカスくんの身体なんだったな。  常に鏡を見ている訳でもないから、忘れがちになってしまう。 「……所で、あれとは何ですかね?」 「あ、それは……。その」 「……無神経とか、そう言うあれ」  無神経か。  いや~耳が痛い!  人斬りとしてのスイッチが入ってない平時は、人の笑顔が大好きだからな。  宴席(えんせき)でも井戸端会議(いどばたかいぎ)でも、ズケズケと話しては『もう、仕方が無いやつだな』と言われて来た。  何だかんだで、笑って心を開いてくれる良い人たちばかりで助かった。  まぁ――そう言う胸襟を開く会話から、時に諜報(ちょうほう)に繋がる重要な情報も意図せずに得てしまうこともあったけどな。  武士として、この人の為に死ねる。  そう心に決めた以上は、その方の信義とぶつかるなら報告せざるを得なかった。  そうでも無ければ、親身になるがね。  キチンと武士としてぶれない一線は、心得(こころえ)として己で持っておくべきものだ。 「無神経と言われては、これは言い返す言葉がない! (おっしゃ)る通りだ。何せ、お優しく献身的(けんしんてき)に頑張るテレジア殿や、役割に聡明でいて人情も持ち合わせるエレナさんと、今まで俺は話す機会が無かったものでして……。これは、人生の損失でしたな! こうして話せる間柄(あいだがら)になれた事に、感謝をせねば!」  俺が哄笑(こうしょう)しながら言うと、テレジア殿もエレナさんも毒気(どくけ)を抜かれたように表情を柔らげた。  テレジア殿は消え入りそうな声で――。 「――その、気になる殿方は……出来ましたから。恋とかは、まだ分かりませんけど……」 「なんと!?」  テレジア殿に、気になる男性が!? 「……私も同じ。存在からして興味深い男性を見つけた」 「ま、まさか!?」  エレナさんまで!?   2人が同時に気になる男性を見つけるとは――やはり、2人は仲が良いんだな!  これ程の器量好(きりょうよ)しに見初められる光栄な男が居るとは……客観的に観ても羨ましい! 「それは(うらや)ましい男が居たものですな! いや~、お2人にそれ程の興味を抱いてもらえるなんて。余程(よほど)、素晴らしき男なのでしょう! 是非、進展があったら紹介してください。俺もお2人の友達として、一献(いっこん)飲み交わしてみたいですからな! はははっ!」 「……お、お友達」 「……朴念仁(ぼくねんじん)」  ん?  俺はまた、若者が呆れるような親父ギャグか何かで滑ったのかな?  ギャグのつもりはなく、本心だったんだが。  それに親父ギャグの元を辿れば、貴族の芸術作品なのだけどな。  まぁそれを若き2人に説明しようとすると、さらにおっちゃん臭くなるか!  複雑そうな表情をして、男女共に若者の気持ちはやはり読めんな!  すると傷付き呻いていた男……傍らに置かれた(よろい)紋章(もんしょう)から、俺が討ち取ったラキバニア王国子爵軍の者と思われる男が、(うな)りながら身体を起こすのが目に入った。  男は俺へと視線を向け、荒い息を大きく吸うと――。 「――……刺してやりたい」  そう(つぶや)き、バタリと横になった。  ふむ、動くのも辛い中で復讐心(ふくしゅうしん)を口にするとは……。  敵ながら、見上げた根性だ!  よし、この者に決めたぞ!
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