第24話 加齢臭団

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第24話 加齢臭団

 敵軍に潜り込んでから3日目の早朝。  昨夜遅くにラキバニア王国兵の陣を抜けだした俺は――自分の陣へと戻って来た。  ラキバニア王国兵の軽鎧(けいがい)を脱ぎ、ゲルティ侯爵から指示された任務を終えて帰陣(きじん)したと見張りへ伝える。  子爵を討ち戻って来た俺の顔は最前線のに顔が知れて居たのか、大した確認もされず通された。 「――さて、こちらの陣はどうなったかな? エレナさんに確認したいが……。まだ起きていないかな?」  300の騎兵派遣、その後がどうなったのか。  頼んでいた道具がどうなったのかなど、知りたい情報も多々ある。  第3魔法師団が何処に布陣しているのか聞かなかったのは、手痛いミスだったな。  腐っても6千の兵士が陣を敷いているのだから、探すのも容易ではない。 「まぁ挽回出来ぬ程のミスでもない。作戦決行は夜。焦らずに行こう!」 「……その言葉に妙な力が籠もっているのは、ルーカスくん」 「ルーカスさん! よくぞご無事で……。本当に良かったです」 「おお、エレナさんにテレジア殿! こんな朝早く起きていたのですね!? それにしても、良く俺がここにいるとわかりましたねぇ」  眠そうに目を擦るエレナさんに、(ひとみ)(うるお)ませ祈るテレジア殿。  昇ってきた朝陽(あさひ)が、まるで後光(ごこう)のように美しき2人の神秘性(しんぴせい)を高めている。  エレナさんの青髪はまるで青空に溶け出しそうな程に透き通り、テレジア殿の銀髪は陽光を跳ね返し輝く刀身(とうしん)のような美しさだ。 「3日後の朝に戻ると行ったのは、ルーカスくん。だから最前線で待ってた」 「はい! 毎朝、神へ無事を祈りながらお待ちしていました」 「本当にありがとうございます。朝からお会いできて光栄です。眼福眼福(がんぷくがんぷく)!……でも、寝ていて下さった方が俺は嬉しいですよ? 2人の笑顔が寝不足で(くも)っては、良くないですからねぇ」 「……またそう言う」 「これがスッと口を突いて出ちゃうから、天然だと言うのですよ……」 「ん? 何か?」  小声で呟く2人に俺が改めて尋ねるも、複雑そうな顔をして答えない。  やはり、こちらの世界で言うジェネェレーションギャップの類いだろうか?  おっちゃんと若者で会話が上手くいかないのは、もう仕方がない。  ん?  いや、それ以前に住んでいた世界からギャップが生じているのか!  成る程、これは笑うしかないな! 「俺も早く馴染んで見せますよ。だから、ギャップだらけのおっちゃんと邪険(じゃけん)(あつか)わないでくださいね」 「意味が分からない」 「ごめんなさい。どう思考を辿(たど)りそこへ行き着いたのか、私にはまだ理解が出来ません」 「おや? 違ったようですね。やはり若者の考えを読むのは難しい。しかし、ここでお2人の思考を学ぶのも、また()(しろ)と感謝すべき機会! 追いつく……いや。巻き戻れるように、おっちゃんも頑張りますよ!」  エレナさんもテレジア殿も、俺の言葉に苦笑している。  ふむ。  まぁ見た目と中身の乖離があるから、そのような反応も仕方が無い。  それに――苦笑も笑いのうちってね。  若者が未来を嘆いて暗い表情をしているより、余程良いさ! 「……()(かく)、こっちの準備は整えた。確認をして欲しい」 「おお、整えてくれたのですか!? ありがたい、流石は聡明(そうめい)なエレナさん。いや~助かりますよ」  本当に助かる。  期限は1週間とかゲルティ侯爵に言われたけど――あの期限設定も適当だ。  実際に潜入してみて分かったけど、今夜にも近くの重要な城からゾリス連合国軍の伯爵が指揮官として着陣するらしい。  ラキバニア王国兵を率いていた子爵と将軍が亡くなったのだから、同じ連合国内の権力者が派遣されるのは仕方がない。  現状の把握や再編には時間がかかるだろうけど……。  1週間もあれば再攻を仕掛けられて、折角の奇襲も意味を成さない可能性がある。  頭の中で見聞きや実体験から学び得てきた戦略を練り、陣を進み――。 「――おお……。見事に、おっちゃんばかりの騎兵を集めましたな!」 「ん。ゲルティ侯爵やササ伯爵は、ルーカスくんに失敗させたいらしい」  第3魔法師団を除く騎兵の平均年齢は45歳程度と言った所だろうか?  よくも集めたものだ。  逆に選抜するのに時間がかかっただろうに。  その根性を少しまともな方向へ活かす努力をしていれば、ジグラス王国もここまで窮状(きゅうじょう)に陥らず済んだだろうにな。  だが、俺にはやりやすい。 「――加齢臭(かれいしゅう)(ただよ)諸君(しょくん)! そして第3魔法師団の皆さん。よくぞ集まってくれました! 俺は今、作戦の成功を確信しましたよ!」  若者の思考を読むより、おっちゃんの思考を読む方が余程分かりやすい。  集まっていた兵は、誰も彼もが疲れて死んだような目をしていたが――やり甲斐とリターンを説明すると、次第に楽しそうに瞳を輝かせた。  まるで若者のように。  そう、年齢じゃないんだよ。  やりたい事に情熱を燃やせるよう、環境を整える事。  それにより、おっちゃんだろうと輝けるのだ。  そうして俺は、自らが指揮する300名へ詳細な作戦を説明した――。
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