第8話 将軍? どうも、俺は若造おっちゃんです

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第8話 将軍? どうも、俺は若造おっちゃんです

 子爵を囲む兵を俺は切り捨てて行く。  どいつもこいつも身体から立ち昇る魔力は凄まじい。  顔立ちから察するに……30歳前後だろうか?  兵士としては心身共に隆盛(りゅうせい)の年頃だろうが――。 「――未来ある若者(わかもの)に用はない! 退け!」 「だ、誰が若者か!? 無礼な小僧(こぞう)めが!」  俺の顔立ちを見て、相手は憤慨(ふんがい)している。   それもそうか。  見た目からして――10代半ば、それも童顔(どうがん)の男に『若者(わかもの)』と言われてはな。  バカにされてると勘違いしてしまうだろう。  無益(むえき)殺生(せっしょう)は避けたいが――。 「――子爵! ここは私に任せ、一時退却を!」  一際輝(ひときわかがや)く鎧を身に纏う男が、馬を操り立ち塞がった。  周囲の者と比較しても立派な鎧。  細やかな装飾が施された赤い槍。  年齢は……40歳前後の子爵よりも、更に上に見える。 「おお、将軍! ま、任せたぞ! 私は一時、後方に下がる!」 「はッ!」  成る程。  立ち上る魔力に、戦慣れした様相(ようそう)。  貫禄(かんろく)のある顎髭(あごひげ)に、闘志漲(とうしみなぎ)る瞳。  そして、将軍と言う肩書(かたが)き。  この男が――実質的に、この軍の指揮を()っていたと見て間違いない。 「小僧、ここまで単身(たんしん)で攻め寄せた根性は褒めてやろう。貴様のように勇気ある若者を無為(むい)に戦場へ散らすとは、な。全くジグラス王は愚王(ぐおう)極まりない」  立派な馬に(また)がる男は、嘆息(たんそく)しながらそう言う。  そして槍を俺に向けると――。 「――降伏(こうふく)しろ。我が軍に(くだ)れば、高く用いる事を約束する。その身なり、どうせジグラス王国では見合った身分にないのだろう?」  そう言い放ってきた。  よりにもよって(けん)(まじ)えず、裏切れとは……。 「ここで簡単に裏切るような男に、貴殿(きでん)は戦場で背中を預けられるのか? 俺には無理だな。おっさんになると、裏切られた回数も増えるからなぁ。疑心暗鬼(ぎしんあんき)(おちい)り、とてもじゃないが戦に集中出来ないよ。きっと貴殿もそうだろ? はははっ!」  護るべき大切な何かの為に戦場に立ち、(おのれ)の義を持って戦場に立つ強者と剣を交える栄誉(えいよ)。  これは――昂ぶる!  上機嫌に言葉を返した俺に、将軍は一瞬キョトンとした表情をしてから――。 「――ふっ。小僧(こぞう)と思い、(おろ)かな提案をした。小僧……いや、1人の騎士としてこの場に立つそなたには、愚問(ぐもん)だったな」 「ああ、いやいや……。貴殿がそう思うのも無理は無いですよ。――あと、俺は騎士ではないですな」 「……なに? まさか、その簡素な()()ちは……。騎士爵(きししゃく)も与えられていない、平民か!? だとすれば、なんたる才能の浪費(ろうひ)……」 「ああ、いやいや。私は準男爵家(じゅんだんしゃくけ)の3男。家督(かとく)を継いでいないし、資格も無い。騎士爵以下なので、ある意味では貴殿の言う平民も間違いではないのですがね? そうではなく……俺は国を守る為に命を投げ打つ騎士では無い。己の矜持(きょうじ)……プライドの為に命を投げ打つ、武士道に生きる者――つまり、サムライです」 「……サムライ、だと? 若造、何を――」 「――(とし)()ると世間話が楽しくなっていかんね。……これ以上、時を無駄にしては大将首(たいしょうくび)に追いつけなくなる。その首、もらい受ける!」 「――ぬぐっ!?」  若造(わかぞう)(あなど)り油断したまま槍を向けていたのが間違いだ!  流石に槍を奪われるような無様を将軍は(さら)さなかったが――脇にガシッと抱えていた槍を引き、馬から落とす事には成功した!  重い鎧を着込み馬上(ばじょう)から落ちた者など、直ぐには体勢を立て直せ無い!  だが――予想以上に速い!?  こんな動きが人間に、いや……魔力が身体を覆っている。これは魔力による力だな!  流石は将軍、予想外の事態へ対応が速いのには驚嘆(きょうたん)するが、最早致命的(もはやちめいてき)――。 「――首級(みしるし)、もらい受ける!」  呆気(あっけ)に取られた表情のまま――将軍の男の首は、(どう)を離れた。  歳を取ると、見た目で敵を()(はか)る事に慣れていかんよね。  交渉相手や立ち会い相手が若いと、それだけで油断に繋がる。  ま、この場は――この若い見た目に助けられた。  真っ向から対峙(たいじ)していたら、魔力に慣れていない俺では……斬り合いの勝ち負けは分からなかったな。 「しょ、将軍!?」 「ま、まさか将軍が!?」  はははっ!  若いうちは早く貫禄が欲しいと、それなりの年齢になるのを待ち望んだが……。  30過ぎた頃からかな。  歳月(さいげつ)なんて重ねるものじゃないと気が付く。  今なんて、10代半ばで本当に良かったと感謝しているよ!  歳を取らなきゃ分からない事もあるが……やはり若いのが一番だな!  俺は周囲が驚愕(きょうがく)に動けぬ隙に、こちらの世界の作法に(のっと)り――頭部の鎧のみ抱え、将軍の馬に乗る。  (また)がった瞬間感じる、力強さに素直さ。  うむ、流石はラキバニア王国の将軍が乗っていた馬。  これは良い馬だ! 「ま、待て小僧! おい、逃がすな!」 「子爵を追うつもりか!?――魔法を放て!」  馬を駆けさせる俺の横を、雷撃(らいげき)が通り抜けていった。 「うおっ!? 味方の兵を巻き込むのに躊躇(ちゅうちょ)しないとは……」  横目に見ていなかったら直撃していた!  その代わり、他の歩兵が魔法で死んでいるが……。 「……嫌だねぇ。君たちは(ろく)なおっちゃんになれんよ!? 死んでも天国には行けんな! きっと戦場へ産まれ変わる羽目(はめ)になるだろうね!」  広範囲を攻撃する魔法を避けるのは用意ではないけど――小銃(しょうじゅう)よりは魔力のうねりで予備動作(よびどうさ)や狙いが分かりやすいのが救いだ。  これぐらいの魔法なら、油断しなければ避けられる。  それでは――征くとしよう!
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