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ぼくがクラスメイトのサリちゃんにラブ光線を送り続けてもう二年になる。
今は小学六年生の二学期。卒業までに気づいてもらうことはきっと叶わないだろう……そう諦めていた。
何万光年も離れた乙女座に電波を送っても、届くまで何万年もかかるって聞いたことがあるけど、そのくらいほど遠い距離を感じてしまう。
だって小学四年生から同じクラスなのに、まだ一度も話したことがない。というのもぼくは五年生になってから、クラスメイトと言葉を交わすことが全くできなくなってしまったんだ。四年生までは普通に話せていたのにいったいなんでって思った。でもきっとそれまではクラスメイトに恵まれていたんだと思う。元々仲の良かった子がたまたま多かったから。クラス替えで全てが様変わりしてしまった。その内に話さないことにも慣れ、いつのまにか無口なキャラを変えることができなくなってしまった。こんな風になるのなら、四年生の時にもっと積極的にサリちゃんに話しかけておけばよかった。当時は恥ずかしくて逆に避けてばかりいたことを思い出す。
それでも無口になったからと言って、サリちゃんへの想いは少しも変わらなかった。ただクラス一の無口キャラであるぼくのことなんか、彼女はこれっぽっちも興味を示さない……そんなことは簡単に想像がつく。いっそこの恋心みたいな感情も消えてしまえばいいのに。しつこくぼくにつきまとうから、ついついラブ光線を送ってしまう。気がつくと彼女を目で追ってしまうから本当に困るんだ。
国語の授業で"想い人に手紙を書こう"という課題が出たのはそんな時だった。いわゆるラブレターだ。優秀作品に選ばれると、学年を代表して表彰されるらしい。
ぼくはいつもこういった課題には、プライベートなことをなるべく持ち込まないようにしていた。先生に読まれる時点でどこか抵抗がある。でもこの時ばかりは感情が湯水のように溢れてきて、サリちゃんに対する思いの全てを手紙にしたためることができた。それは自分でもびっくりするほど心のままの文章だった。そしてそれをそのまま提出してみたんだ。
それでまさか、ぼくの作品が最優秀作品に選ばれるなんて夢にも思わなかった。おかけでクラスのみんなの前で発表することになってしまう。少し緊張もあるけど、最優秀作品に選ばれたことはやっぱり嬉しい。それにクラスメイトと話せなくても、"授業の発表"という場であれば割と普通に声を出せたから支障はなかった。
そして発表の日。ぼくは教壇に立って、クラスメイトみんなの前で手紙を読み上げる。実際に声に出してみると、思いのほか気持ちが言葉に乗って、声のトーンにも思いが込もる。そのまま最後の一文にさしかかると、
「サリちゃん、大好きです」
本文には無かった想い人の名前を明言して締めくくったんだ。
告白する機会はもうこの時以外にはないと思っていた。クラスメイトの前で言葉にすることはとても恥ずかしかったけど、クラスのみんなは盛大な拍手をくれた。それに何よりのサプライズは鳴り止まぬ拍手の中、サリちゃんが席を立ってぼくのところまで来ると、この手を取りぼくの席までエスコートしてくれたことだった。その時、彼女のほっぺがいつにも増して赤く染まっていたことをぼくは見逃さなかった。
それ以来、積極的に話しかけてくれるサリちゃんと少しずつ話せるようになって、その内にクラスメイトとも普通に話せるようになっていった。本当に奇跡のような出来事だった。
この話には裏話がある。国語の先生が愛のキューピットになってくれたんだ(担任の先生でもあった)。サリちゃんの書いた手紙もぼくに向けて書かれたものだったらしい。小学四年生までは普通に話せていたのに、どうして五年生になるとそこまで押し黙るようになってしまったのか。どうにかして卒業までに話せるようになってほしい。ずっとそのことが気にかかって頭から離れない。それなのに何もできずにここまできてしまっていること……手紙にはぼくへの思いが切々と綴られていたらしい。ラブレターというよりは、ほとんど先生への相談に近い内容でもあったが、サリちゃんの想い人は間違いなくぼくだと判断した先生は、最優秀作品に選ばれた時にその全貌を語ってくれた。そして言ってくれたんだ。
『ユウリくん、このラブレターを読む時にそのままサリちゃんに告白しちゃいなさい!』
ぼくが折に触れてはサリちゃんのことを目で追っていることに、先生は気づいていたみたいだった。だからぼくの書いた手紙に彼女の名が登場していなくても、想い人が誰なのかわかったんだ。二人の手紙を通して”両想い”を確信した先生は、ぼくの背中を押さずにはいられなかったんだろう(それに先生もぼくがみんなと話せないことをいつも気にかけてくれていた)。
おかげで告白は見事に大成功。サリちゃんからはまだはっきりとした返事をもらってはいないけど、格段に距離は縮まっている。何万光年も彼方にある乙女座ほど離れていた距離。一生届かぬはずだったラブ光線。それが今ではいつでも手の届く距離に乙女がいる!ぼくは至近距離でラブ光線を浴びる度、超新星爆発しそうになる。
このまま同じ中学に進んで、この関係がずっと続くことを望んでやまない。
【完】
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