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美術室を出てからアサキは何も喋らなかった。 靴を履いて外に出ると雨は止んでいた。 速い速度で雲が流れて切れ間の空が夕陽に染まってる。 まだ黙ったまま校門に向かう。 私も話しかけるきっかけの無いまま隣を歩く。 校門を出ると立ち止まり、こちらを向いた。 『花火、アイツと行くの?』 怒ったような口調に何かを期待をしてしまう自分が情けなくなり、小さな声で『行かないよ』と答えた。 『俺さ…葵に彼氏ができたらとか考えたことなくて。』 …何を言っているんだろう? 『だからさ…この前から森野が葵のことを何度も聞いてきたり2人で話してるの見かけて苦しくなったというか。』 …え?苦しいのはこちら側だけじゃなかったの? 『だからさ葵は俺のことどう思ってんの?』 そんなの好きに決まってるじゃない。 先ほど堪えた涙がまた込み上げてきて声にならない。 そんな私の姿が、彼に対する答えになった。 私の左手を握って続ける。 『俺さ、この学校入ったからにはバスケ頑張りたいんだ。だから引退までそこらへんのカレカノみたいに付き合えないけど…待っててくれる?』 私は手を握り返して何度も頷いた。 『今日の花火は一緒に行こうな。記念すべき初デート!』 照れ隠しに明るく言ったアサキは夕陽に照らされて、幼い頃から変わらない笑顔で立っている。 神様、雨を止ませてくれてありがとう。 初デートが花火だなんて、一生忘れない。
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