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今日もか… 今日も力強くジャンプするアサキの姿は見れなさそう。 7月に入って1週間、毎日雨が降り続いていてグランドで練習できない運動部が体育館に集まってる。 一応室内練習だが、いつもよりみんな気が緩んで他の部活と好きずきに話してる。 高校2年、夏休み明けから大会が始まる部活が多いが雨の時期の束の間の緩い時間、それも金曜日…先生も黙認してるんだろうな。 進学校でありながら運動部も盛んなこの高校は体育室を中心にコの字の建物になっている部分がある。 周りを取り囲む教室は体育室側にも窓があり見えるようになっている。 私は放課後バスケ部の練習を見ながら絵を描いたり本を読んだりしている。 この学校には珍しく運動部に入らない少数の生徒を気にかけてくれた美術の石川(いしかわ)先生が、3階の端っこの美術室を交流の場として解放してくれているのだ。 最初に美術室を訪れた時、『運動しないのになんでこの学校に来たの?』の質問に口籠る私を見て石川先生は『ははーん。好きな人を追いかけてきたのね。』と微笑んだ。 運動部とは縁の無い私がこの学校を希望した時両親は驚いたが、なかなかの進学校ということでかろうじて説得できた。 男子バスケ部のシュート練習に近づく3人の女の子がいる。 テニス部の甘い色のユニフォームを着て笑うたびにフワフワと揺れるその姿を厚いガラス越しに見下ろしながらため息をついた。 …魚みたい。 私とは住む世界が違う。 私は溺れて生きていけない世界。 見ているだけでも息苦しい。 たまらずに外が見える窓の方へ移動した。 この教室に来た時よりもさらに雲は黒くなり、雨が窓ガラスを叩きつける。 高台の校舎から見える景色は広い。 シュートする姿を描き進める気にもなれず、遠くに光る雷とその光に照らされる平野の街をボンヤリと眺めていた。 しばらくするとドアがノックされ、同じクラスの森野(もりの)君が入ってきた。 よう!と言いながら近づいてきて、隣に座る。 『すげぇ雨だな。落ち着くまで帰れないよ。』 そして私のスケッチブックを覗いて『上手いな。』と言った。
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