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「アナタが死にたいと思うならそうしてもらってもかまいません。でも私はアナタと未来がみたくなりました。もしその命を今、捨ててしまうのならこの私にその命を預けていただけませんか。これから私のために生きて私の唄を聴いてくれませんか?」
俺は今、生きている。
毎日、癸がくれたコトバで目が覚め、今日がはじまる。
こんな俺にも未来があるという希望をくれた癸のために、俺は今日も生きる。
癸の唄声と鳥たちの囀りが聞こえ、冷えた空気と暖かい空気が入り混じった風が吹き、朝露の香りの中に鰹節の匂いが一瞬通り過ぎていく。
「未来! おはようございます! 朝ですよ」
未来は白い布団をかぶり丸くなっている。割烹着姿の癸は未来がかぶっている布団を剥ぎ取り起こそうと声をかけるが起きないため掌に小さな水球をつくり顔の上に落とす。すると未来は目を覚まし起き上がる。
「毎度その起こし方だけはやめてくれ」
「何度呼んでも起きないので仕方がないのですよ。ちゃんと起きればいいだけの話です。さあ、朝ごはんにしましょう」
「あ、俺の番だったか。ごめん」
「役割をこなすことも大切なことですが、ゆっくり休むのも大事なことですからね。たまには寝坊を許しましょう」
「そうだ、昨日の夜、糠漬けを準備したんだ」
「いいですね! 未来の糠漬けは美味しいですからね」
ガラスのテーブルの上に白米、具沢山の味噌汁、煮物、糠漬けが並ぶ。空色の池、地面には色とりどりの花々が咲き乱れている。桜、菜の花、向日葵、朝顔、紅葉、秋桜、猩々木、白樺が年中咲き季節はなく、気温は一定、雨が降ることがない場所で暮らす未来と癸の食事はいつも外の机と決まっている。
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