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私の主は、創作家である。
特に、恋愛小説を書いている。
私は、今、主の書いている小説のヒロイン。
ただ、ここ1ヶ月程更新がない。
スランプなのかな?
現在、主人公の男の子と喧嘩をしてしまい、お互い好きだけどすれ違っている最中。
早くあの子に謝りたいのに! そして、あの子と付き合いたいのに! 主は一体、何を戸惑っているの!?
教室の窓際の席で、ぼんやりとあの子の事を思い続けながら早一ヶ月……。
外を見れば大雨で、息がしにくいくらいだ。圧迫感のある雨。
私はその雨を眺めていた。雨を眺めて早一ヶ月となる。
雨が降っていて、しかもどしゃ降りで、これは絶対に、更なる試練が始まるやつではないか。
その書き始めだけ記して、消えてしまった主。
主がこの物語を書き続けなければ、私はこの雨を永遠と眺めていなければいけない。
いつまでも降り止まない、雨。
この物語が進んだ時、雨は止むのか、雷がなり始めるか。
暇すぎて、私はそんなことを延々と考えていた。
「もうこの体勢飽きたね……」
教室の黒板を穴があくくらい見つめている、隣の席の女の子が、口だけ開いた。
「あなたもずっと空ばっかりみてて、首疲れるでしょ?」
「作品が更新されないとずっとこのままだから……仕方ないよ……」
そして、この恋も、このまま進展しない。
「知ってる? うちらの主の作者、今別の執筆始めて、そっちに集中してるらしいよ?」
「え?」
私は頭を動かさず、信じられない、と言ったように声を出した。
「このままうちらの設定忘れて、うちらのこと忘れちゃうかもね」
私の頭の中が真っ白になった。
何も言えない。
それじゃあ、この私の恋は喧嘩をして終了? 何もなかったことになるの? 私、この作品のヒロインだよね?
嫌だ、終わらせないで。
お願い、主! 私達のことを作ったのは主だよね?
ちゃんと最後まで描いて! こんなところで終わらせないで!
未完の私達のことを! 作品であなたの帰りを待っている登場人物のことを! 忘れないで!
そんなことを祈るように思っていると、サァ、っと、光が窓から射し込んできた。
同時に私の頭の中に、違う物語が流れ込んでくる。
雨が上がったのだ、主が、帰ってきた!
雨上がりの空には、虹がかかっていた。
空気は澄み、私の視界も開けた。
私はまだ、この物語のヒロインとして、過ごしていきます。
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