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いつもの桜の木の下で、コンビニで買ったアイスを手にしながら私は話し始める。
「私ね、音楽が好きなの。どんなにつらいことがあっても、音楽を聞いている時間だけは、全て忘れられるっていうか。特に『MOON』をはじめて聞いたとき、びっくりしたの。感動して涙が出てきて。そばにいてくれるような元気が出る曲だったから。だから、私の一番好きな曲!」
そして私は桜の木を見上げる。
「この曲を初めて聞いたとき思い浮かんだのが、高校受験の勉強で悩んでたとき、塾の帰り道で見上げた空に浮かんだ月とその光に照らされた夜桜だったの。すごく綺麗で、優しく背中を押してくれているような気がして。その時の月と桜みたいに私にとってこの曲は特別な曲。私もこんな曲を作りたい。歌いたいって思った!でも誰かに言ったら、今まで頑張って勉強してきたんだから、大学に行って、ちゃんと就職しろっていわれる気がして。どうすればいいのかな。ひなたはどうしてアイドルになろうと思ったの?」
このことは親友はおろか、誰にも話したことがなかった。でも、陽向になら正直に話せる、頼れる気がしたから。陽向がゆっくり話し出す。
「まずは自分が幸せにならなきゃ意味がないでしょ。僕は歌って踊るのが楽しい、幸せだって感じたから、この道に進んだんだよ。それに、自分の歌でみんなにも幸せがおすそ分けできているって考えたら嬉しくなる。だからおうかも自分の幸せをつかむことを考えて、それから周りも幸せにできたならラッキーくらいのスタンスで進んで行くのがいいと思う。考えすぎなくても大丈夫だと思うよ。個人的な意見になっちゃったね。でも、ちゃんと人を頼れたじゃん。もう充分偉いよ。」
そっか、それでいいんだ。自分を見失ってた。自分の人生なんだから、自分らしく生きたい。
「やっと、わかった。これからはもっと、自分を大切にする!まだ、将来とかはよく見えないけど。」
「それでいいんだよ。」
って微笑む陽向に安心した。心のモヤモヤが晴れて、光が差し込んだ、みたいだった。
「おうかのために、一曲歌います!」
って、陽向が立ち上がる。歌う陽向を見て思った。私にとっての特別は『MOON』だけじゃなくて。陽向もそんな存在になってるんだ。
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