三分咲き -春休み3日目-

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三分咲き -春休み3日目-

今日もいるかな。さっきまで図書館で勉強していた時も、午前中の部活でも、なぜか考えてしまっていた。陽向さんのことを。今日はいくつもりじゃなかったのに、いるわけないよねって思いながらいつもの丘へ向かっていた。昨日みたいに木のそばには人影は見えない。でもまだのぞみはあるって考えて登っていく。 途中で声が聞こえた。歌声だ。 「僕らHI:LIGHT 照らすIN:LIGHT   導く月明かり」 あれ、この曲、この歌声、いつも聞いてる…。聞き間違える訳がないこれはHILIGHTのサンアの声。でもいくらサンアがこの街に帰ってきてるからってここにいるわけないよね。私はその声につられて桜の木のもとまで足を進める。そこにいたのは陽向さんだった。陽向さんがサンア…。一瞬で点と点が線になった。陽向さんがとんでもなくかっこいいのも、はじめて会ったときなんともいえない懐かしさを感じたのも。陽向さんがこっちを振り向く。 「もしかして、バレちゃった?」 困ったように笑いながらこちらへ歩み寄る。 「実は僕がkpopアイドルHI:LIGHTのボーカル サンアでした!」 私は驚きすぎて声が出ない。なんで今まで気づかなかったんだろう。 「知ってると思うけど、今、休養中なんだ。この桜が満開になる頃には韓国に帰る予定。」目を見開いて固まっている私に、 「正体を知ってしまった君には…」 といって陽向さんがふわっと近づく。そして耳元でささやいた。 「一緒に罪を犯してもらおうか。」 へ?思ってたのと違う。頭の中がハテナでいっぱいだ。ぽかんと開いていた口を頑張って動かす。 「罪とは、具体的に?」 変な口調になってしまった。 「Kpopアイドルとの契約恋愛的な?」 契約恋愛!?それって、よく少女漫画が原作の映画であるやつ?詳しく聞かなければ 「と、言いますと?」 ショックで変な口調が治らない、私は江戸時代のサムライか。 「よくぞ聞いてくれました!僕が韓国に帰るまでの間、10代のうちに普通の青春を謳歌したいっていう僕のお願いを叶えてもらいたい。」 なるほど…。じゃない!ムリムリ。あわあわしている私に陽向さんは、必殺、アイドルスマイルでとどめを刺す。 「叶えてくれる?」 そんな風に言われたら…。 「私でよければなんでもします!」 こうしてkpopアイドルと普通の高校生の忘れていた青春を取り戻す秘密の春休みが幕をあけたのだ。 「っていうか。顔見ても気づかなかったのに、歌ってるの聞いて気づくって、逆にすごいね。」 「一応ひなたさんの『歌声の』ファンなので。」 えっへんと胸をはる。 「『歌声の』ね…。」 と陽向さんは呟いた。 「『MOON』がはじめてハマった曲で一番好きなんです。もしよかったら、もしよかったらなんですけど。あのラスサビのパート歌ってもらえたり…?」 陽向さんはいいよって言って歌い出す。夢にまでみたサンアの生歌唱だ。澄んだ歌声が耳へ届く。聞いているだけで心のモヤモヤがすーっと晴れるような。そんな心地よい気分。ずっと聞いていたい。歌い終えた陽向さんに私は声をかける。 「やっぱり好きです。すごく。」 「それって、告白?」 「違うに決まってるじゃないですか!」 せっかく感動してたのに。やっぱりこいつは陽向さんだ。サンアは陽向さんで陽向さんはサンアなのだと実感する。その日は歌って歌って歌いまくって一日を終えた。  
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