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第5話
「どうしましたか?」
「……は、はい。それが緋神子様、確かにこの刀は魂刀なのですが……」
「歯切れが悪いですね。遠慮無く申しなさい」
「……実は、宿す超常の力は――『不滅』のみでして」
「『不滅』、ですか?」
「はい。おそらく老朽化も傷もつかず、永遠に敵を切り続けられるという一点のみの能力です」
「超常現象を起こす力はねえって事か!?」
たまらず怒号のような口調で詰問する黄杞。魂刀鑑定士は身を震わせ、涙目で答える。
「……誠に、誠に申し上げ難いのですが、その通りです。勿論、覚醒して隠れた部分が、という可能性が無いとは言い切れませんが……。現状では探っても、隠れた部分は見当たりません」
居合わせた一同は、愕然と口を閉じた。
拵えを鞘師、鐔師、金工師などが急拵えで作っている間に、誰が魂刀の担い手となるか話し合いが始まった。
名のある優秀な武士は既に自分の魂刀を持っている。
代々受け継がれたり、長年連れ添った相棒を手放してまであの刀を受け入れようとは思わない者ばかりだった。
とはいえ、御国の大事に二千名の高徳な御巫が命を捧げ生誕させた魂刀である。
なげやりかつ強引に主人を決めて良いものではない。
長時間に渡る話し合いの結果、三代剣術流派の中でも頭一つ抜けた戦闘実績を持ち、恵まれた体躯を持つ壌土山霊流の当主が担う事となった。
拵えは既に出来ていた。
壌土山霊流当主、黄杞が手渡された魂刀を構えると――。
「――うおッ!?」
空間が歪み、身体を弾き飛ばした。
魂刀に強く拒絶された時の反応である。
「……黄杞ともあろう者が弾き飛ばされるとは。余程、乱暴な使い手が嫌だったと見えるね」
「んだとぉテメェ!?」
「蒼樹の。そのような斜に構えた言動は仲違いを生む。今は控えるべきだ。肝要なのは誰がこの魂刀に受け入れられるかだろう。そこまで言うからには、貴殿には自信があるのだな?」
赤城家当主の言葉によって、次は蒼樹家当主が魂刀に挑む流れとなった。
もはやこの流れは変えられまいと諦めつつ魂刀をゆっくり手にして構え――黄杞と同じように弾き飛ばされた。
文武官ともに驚愕に眼を見開いた。
魂刀の扱いに長けた歴戦の猛者。
三大流派の当主二人までもが魂刀に強く、強く拒絶されたのだ。
信じがたい。
周囲の視線に促され、赤城の当主も魂刀を手にするが――結果は同様。
当主三人揃って床を転がる羽目になった。
「まさか、全員が拒絶されるとは……。大御神は、一体どんな使い手をお求めなのでしょう」
これには緋神子も困った。
当主である三人がダメならば、一体誰ならこの魂刀は受け入れてくれるのだろうか。
そこからはやぶれかぶれであった。
各流派の免許や大目録を持つ腕の立つ者、元服済みの武士。
ありとあらゆる者が挑み、全員が強く拒絶された。
能力を引き出すどころでは無い。
手に持ち、構えることすら魂刀は許さない。
「なんということだ……。救国の刀を、誰も持てぬとは」
目の前で転がる武士達の光景に、善陽寺も愕然としながら小声を漏らす。
もはやどうにもならない。
そんな悲壮な空気が漂っている中――。
「――俺が担い手になろう」
深紅の布地に金の六つ目編み竹籠紋様を刺繍した直垂を纏う――一人の少年が声をあげた。
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