そのまま待ってて

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そのまま待ってて

 雨が降っている間、私は夢をたくさん見ていた。  今は夢と現実の区別がついていない。なんかまだぼんやりして、頭の中の情報をうまく整理できない。  そっとおなかを触ると、素肌の感覚。私は何も着ていない裸の状態。これで彼が来たら恥ずかしい。まあ彼は私の裸を見慣れているだろうけど、とりあえず着るものを探す。  ベッド近くの椅子に、白いバスローブがあった。それを借りてちょっと落ち着く。  目に入った時計は9時57分を指している。その近くの鏡を見ると私が映った。美意識的にも、いい感じにきれい。  もう一度窓辺に立つ。さっきより蝉が激しい。求愛に必死なんだろうか、生存競争も大変だ。  虹も少し色が濃くなった気がする。たもとで遊ぶペットたちも喜んでいるといいな。  箱のような白い建物から、一人の男性が出てきた。  その彼は窓辺に立つ私を見て、ジェスチャーで何か伝えてくる。 「そのまま待ってて」  そう言われていると思った。  彼の動きに懐かしさを覚えて、思い出がいくつも蘇ってくる。  初めて会った日、私は気が立っていて、彼を怖がらせてしまった。  そこから一日ずつ手探りで関係を温め、初めて彼と共に眠った日、ふたりならやっていけるかもしれないと思った。  大好きな人に昇華して、愛おしい人に変わって、嬉しい日々がしばらく続いた頃、私に病気が見つかった。  その病気は進行早く、私から次々に力を奪う。  死ぬのはそれほど怖くなかったが、彼と離れてしまう方が怖かった。  ちょうどその頃、彼は世間の脚光を浴びていた。  AIによる人格形成プログラム。  ペットの行動から感情を汲み取り、それを人格として形成する。用途は個人使用に限り、自治体への届けを出して承認された後、性交機能を持たないアンドロイドにデータをインストールする。
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