職場のモテ男×職場の地味男

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「お待たせ。」 「大丈夫だったのか?」 「もちろん。早速、行くか。」 日下部は走っているタクシーを停めた。 「乗って。」 俺は彼に言われるがまま、タクシーに乗り込んだ。 「どこいくんだ?」 「俺がよく行く場所。」 俺はそれ以上は聞かず、夜の街を車内から眺めていた。 煌びやかなネオン街。 俺とは無縁の世界。 「すいません、そこで降ります。」 「ここ?」 「ああ。歩いてすぐだから。」 まさか、俺が夜の街を歩く日が来るなんて。 タクシーを降りた俺は、周りをキョロキョロと見回した。 「行こ。」 「うん...」 俺は恐る恐る日下部についていった。 5分くらい歩いたところで、日下部は立ち止まった。 「ここの地下にあるから。」 日下部は躊躇う事なく、階段を下っていく。 俺もそれに続いた。 すると、目の前に扉が見えた。 その扉を日下部がゆっくりと開けた。 「いらっしゃいませ。」 「坂下、カウンターでいいか?」 「俺はどこでも。」 初めて足を踏み入れたその場所は、俺には不釣り合いだった。 今すぐ帰りたい。 「ごめんな、付き合わせて。1杯だけでいいから。」 俺の心の声が漏れていたのだろうか? 日下部が言った。 「1杯だけ...なら。」 「ありがと。ウイスキーロックで。坂下は?」 「同じものを。」 「かしこまりました。」 俺は不意に隣に座っている日下部の横顔を覗き見た。 「ん?どうかした?」 「なんでもない。」 日下部に見惚れてたなんて言えるわけが無い。 俺は出された酒をごくごくと飲んだ。 「坂下、酒強いの?」 「まぁ、人並みには。」 「それならもっと早く誘えばよかったな。」 「俺を?」 「うん。坂下とゆっくり話してみたかったから。」 そんなことを言われたのは、人生で初めてだった。
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