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8
董哉が目を覚ました時、視界に映ったのは見知らぬ天井だった。
真っ先によぎった感想は「こんな小説の提携文みたいなこと、本当にあるんだ」である。我ながら呑気だと思った。
周囲を目だけで見回せば、白いカーテンや点滴が見える。記憶を手繰り寄せることで、ようやく今寝ている場所が病院だと理解した。
点滴が刺さってない腕で、手探りでナースコールを探す。どうしても見つからず、諦めかけていた時にちょうどタイミングよく看護師が見回りに来た。
「体調はどう?」
「目眩が少しだけ。それ以外は大丈夫です」
「では先生を呼びましょう」
此処に?
疑問を素直に口に出すと、どうやらここは個室だったらしい。ヒート中ということもあり、万が一フェロモンテロを起こさないとも限らない為、こうして隔離されたらしかった。
ベッドで横になること十数分。そろそろ飽きてきた頃に厳つい顔の医師が先程の看護師と共に入ってきた。
そこから董哉は淡々とした説教を受ける羽目になった。
董哉は軍事基地で倒れた後、救急車で運ばれたそうだ。約1日気を失っていたらしい。
原因は勿論、抑制剤のオーバードーズ。ヒートの効果を抑えることはできていたが、それで倒れたら元も子もない。
ヒートならまず休む事、抑制剤のオーバードーズはヒート周期を狂わせることにも繋がること、何よりこのようなことは周囲に迷惑をかけること。これらを耳にタコができるほど繰り返し医師に告げられた。
董哉は延々と続く説教から現実逃避をしていた時、とても大切なことを思い出した。
「で、あるからして、オメガとしての自覚を持ってこれからは……」
「あの、救急車の費用っていくらですか」
アメリカの救急車は呼ぶのにお金が掛かる。すっかり忘れていた事実に董哉は血の気が引いていいく。
呼ぶだけでも最低でも約500ドル。円にすると約8万になる。そこに距離やオプションも付け加えると、費用は更に嵩んでいく。
おまけに入院費も加わるとなると、相場なんて考えたくもない。
請求される金額を想像してカサついた唇を噛む董哉に、医師は大きくため息を吐いた。
「……今日までの入院費を含めておおよそ860ドル。救急車を呼んだ人が全部立て替えてくれたよ」
「…………え?」
予想外の答えに、董哉はどう切り返せば良いかわからなくなった。
フリーズする董哉をよそに、医師は看護師にアレコレと指示を出して病室を後にした。テキパキと指示通りに動く看護師に、董哉はどうしても気になってしまい詳細を尋ねた。
「あの、誰が立て替えてくれたんですか?」
「それは義務なので言えませんよ。でも、退院の時に貰える明細でわかるんじゃないですか?」
経過観察を経て、退院が許されたのは1日後だった。
本来であれば大金を請求されるところ、1日分の入院費しか請求されなかった。勿論留学生の身では1日分の入院費だけでも大打撃だが、予めオメガ保険に入っていたこともある。本来その場で請求される筈だった額と比べたら、まだどうにかなる。
それよりも、請求書と一緒に渡された明細を見て董哉はひっくり返りそうになった。
そこには、Fred・Jenkinsの名前が記されていた。
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