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アジア人のオメガなんぞに軍の敷居を跨がれたくない。フレッド達の根底にはそんな考えがあることが言動から伝わってきた。 その日以降、フレッド達はわざわざ董哉に嫌がらせをする為に今まで見向きもしなかった食堂を利用するようになった。 ……確かにアメリカでは事故を防ぐためにオメガの入隊は禁止されていることもあり、フレッド達の考え自体はわからなくもない。 しかし、董哉は別に兵隊ではない。ただの料理人で、然るべき許可も得てキッチンに立っている。 詰まるところ、フレッド達にどうこう言われる筋合いなどなかった。 董哉に構う時間をもっと有効活用した方がいいのではないかと思ったが、流石に直接伝えるような真似はしない。変なやっかみを受けること間違いなしだったから。 勿論、ヘンリー達も董哉が兵士達から差別を受けていることなど把握している。しかし、彼らもオメガは劣っているという考えは簡単に拭えないらしく、嫌がらせを受ける董哉を励ましこそすれど助けることはしなかった。 こうなってしまえばお手上げだ。董哉はもう諦めて、ただ黙々と雑用をこなすしかなかった。 「やあ、トーヤ!ちょっといいか?」 そんなこんなで耐え忍ぶように雑用をこなしていたある日。キッチンの掃除をしていた董哉はヘンリーに声をかけられた。 「お前は大学でも料理を専攻しているんだよな?なら、日本料理も作れるか?」 「一応、ある程度なら」 「相変わらず歯切れの悪い答えだなぁ……まあいいや。実は食堂に新しいメニューを追加しようと思うんだ。そこで、君に新メニューを頼みたいと思う」 思ってもいなかった提案に、董哉の目の色が変わる。 「お、俺が作ってもいいんですか!?」 「そう言ってるだろう?それで、やるのかい?」 「やります!!」 食い気味に答えた董哉に、ヘンリーも苦笑いを浮かべた。 「おお、こんなに元気な返事をするトーヤは初めて見たよ。なんならさっき聞いたように、日本食でも構わない。あ、でも流石に寿司はコストが高すぎるかな」 「寿司は俺も握れません」 素直にできないことを伝えると、ヘンリーは意外そうに聞き返した。 「日本人は全員寿司が握れるんじゃないのか?」 「ちゃんとした店が出している寿司は日本でも高価な料理ですよ」 「そうなんだ?知らなかった。なんにせよ、一度作ったら僕の元に持ってきてほしい。それじゃあ、よろしく頼むよ」 ヘンリーがキッチンを出て行くのを見届けてから、董哉は思いっきりガッツポーズをした。小躍りしそうなほど有り余ったエネルギーを掃除に充てるが、まだまだ有り余る程に体が軽い。 やっと自分の実力が認められた気がした。耐えれこそすれど、不快だった日々が報われた気がした。 気分よく掃除しながら、董哉はアレコレと思い浮かぶメニューを思考する。 真っ先に思い浮かんだのはトンカツだったが、ビュッフェ形式では出しづらいかもしれない。かと言って卵焼き等はシンプル過ぎる。アメリカ人の舌を納得させるには、やはり最初はガツンとインパクトのある料理が良いだろう。 ああ、メニューを考えているだけで思考が止まらない。やはり自分は料理が好きなのだと、董哉は再確認した。 ヘンリーからの提案を受けて早2日。董哉は早速試作品をタッパーに詰めてヘンリーの元へ持っていった。 まさか2日で物を持ってくるとは思わなかったのだろう。董哉の行動力の高さにヘンリーも驚いていた。 「こんなに早く持ってくるとは思わなかった!それで、これはなんだい?」 「唐揚げです」 「カラアゲ……」 ヘンリーはプスリとフォークで唐揚げを1刺し、まじまじと観察する。 唐揚げなら、濃い味を好むアメリカ人の舌も満足させられるだろうという魂胆だ。何より、ケチャップやマヨネーズ、マスタードなど好みの味付けなども自由自在。 ヘンリーも訝しみながらも唐揚げを一口。サク、と音を立てて暫くヘンリーは咀嚼し、そして彼はサムズアップをした。 「いいね、カラアゲ!美味しいよ!でも折角の肉料理ならもう少し濃い味があってもいいかな」 「そう思って、ケチャップも持ってきました」 「わあ!トーヤ、君はなんて気が効くんだ!」 差し出したケチャップをヘンリーは他にもあった唐揚げにぶっかけて再び齧り付く。するとヘンリーは先程よりも深く頷いた。 「これはとてもいい!よし、カラアゲを早速新しいメニューに追加しよう!勿論、作るのは君だ!材料を仕入れるから何を使っているのか教えてくれ」 「はい!材料をは鶏もも肉、生姜、片栗粉……」
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