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第1話 王妃暗殺
冷たい。
空気が不気味でたまらない。
足元の石畳とともに我々も息をひそめている。
壁に血を塗りつけながら、地下道を進んでいく。
私の後ろにはワンタが続く。先刻、私とともに王妃ミャンセを暗殺し、血で染まった手を洗わないまま王宮の外に向かって進んでいる。
「チャケン、あとどれくらいだ?」
「...、あと、5ワンタ(20分)ほどで出られるはずだ。」
「にしてもこんな気味の悪い地下道から脱出することになるとは。そのまま海から脱出できたら数倍楽だった。いや数十倍楽だったぜ。」
そう、我々は陸側から王都チャンチャンに侵入し、海岸近くの王宮で王妃を暗殺した後そのまま海側の出口から脱出する予定だった。しかし守備兵が予想以上に早く王妃暗殺に気づき、刺客を逃すまいと全出口を封鎖した。その結果我々は水道抗から地下道に抜け、脱出する始末となったわけだ。
私が前を進み、ワンタが後ろを見張っている。
「階段が見えてきたぞ!地上に近づいてきた。」
「外は朝だろ?出たらどうせ見つかるんだ、堂々と逃げようぜ。」
「おう、全力で市街まで突破しよう。」
「おいまて、静かにしろ、僅かだが、かがり火が見える。」
「...、守備兵か?」
「分からん。ただこの地下道を進んでくるなら、俺らがここにいんのは知ってんだろ。」
「走るか?」
「いや、地上に出る前に俺らの居場所がバレんのはまずい。悪いが、死んでもらうほかないだろ。」
「そうだな、ここで待伏せしよう。」
私はかがり火を消し、弓を構える。
ワンタも剣を抜き、構える。
暗闇の中に、一点の光が動いている。
だんだん近づいてくる。
私は弓を引き絞り、かがり火の到来を待つ。
かがり火がはっきり見えた瞬間、火元めがけて矢を飛ばす。
見事命中しかがり火は消える。
暗闇となった瞬間、ワンタが剣を持って駆け出す。
沈黙していた石畳が、一斉に声を荒げる。
暗闇の向こうで、金属同士がぶつかる音がした。
しかし暗闇である。暗闇の中で守備兵はワンタに太刀打ちできるはずもなく、あっけなく3人ほど死んだ音がした。そしてワンタの足音が戻ってくる。
「いやいや、先頭にいた守備兵は訓練されていたな。暗闇の中で俺の剣を自らの剣で受け止めやがった。」
「まあ、かつて大国であった王国の守備兵だからな。衰えたとは言えそこらへんの王国の兵とは一味違うだろう。」
「この国の権力が変われば、間違いなくチンチャイ州は揺れるぜ。」
「そうだな、これでサランゴ同盟の未来も明るい。」
「そうなるといいんだが...。とにかく、早く外に出ようぜ。」
「おう。じゃあ進むぞ。」
私はかがり火をつけ直し、前へ進む。
「地上に出たら、まず私が周辺の衛兵を射殺する。全員倒したら全力で街まで駆け抜ける。よいな。」
「おう、俺が前を走って目の前の敵を蹴散らすから、お前は後ろについて、追ってくる敵と頭上の射手を頼む。」
「分かった。門を突破するのは無理だろうから、途中で屋根の上に上り、城壁を超えて外に出よう。」
「絶対逃げるぞ。」
そしてついに、地上への出口にたどり着いた。
「開けるぞ。」
「おう、頼んだ。」
私は音を立てないよう頭上の石をどかすと、頭を少し上げ、周辺の衛兵を確認する。
3人いるな。
矢を三本つがえ、音をたてないように慎重に弓を引き絞ると、合間なく三本の矢を飛ばし、全員を射止めた。
「ワンタ、頼んだ!」
「おう、遅れるなよ!」
ワンタは剣を抜いて地上に出ると、全力で駆け出した。
私もすぐに地上に出てあとに続く。
道に出ると、早速衛兵が立ちはだかる。
しかしワンタは足を止めず、その勢いのまま彼らに斬りこむ。
振り返ると、後ろからも衛兵が追ってきている。
弓を構え、全員射止める。
前を向くとワンタは10人の衛兵相手に剣を振り回し次々に斬殺していく。
その瞬間ワンタの足元に矢が刺さる。
次の瞬間私の耳を矢がかする。
左後ろを見ると屋根の上に弓兵が。私はワンタの近くに寄り、ワンタの背中を矢から守りながら弓兵めがけて矢を射かける。肩に一本矢が刺さったが、弓兵は一人を残して射止め、残る一人も撤退した。
ワンタは目の前の衛兵を全員倒すと、再び走り出す。私も背後や頭上に注意しながらあとに続く。
しばらく走ると、再び前に衛兵が現れた。
「チャケン!屋根に上るぞ!あとに続け!」
「おう!城壁の弓兵に気をつけろ!」
ワンタは衛兵に特攻する構えをみせて衛兵を誘導すると、急に方向転換をし傾いた荷車を足場にして屋根に飛び上る。
隙を見せず私も屋根に飛び上る。
とっさに振り向き荷車を支えていた木箱を矢で打ち抜く。
荷車は横転し衛兵の行く手を阻む。
そのまま屋根の上を次から次へと乗り移り、城壁めがけて疾走する。城壁から飛んでくる矢を、ワンタが剣で振り払う。私も弓矢で応戦し数人の弓兵を射止める。
そしてついに城壁にたどり着く。
城壁の上に立つ衛兵を全員射止めると、胸壁にロープを巻き付け、壁をよじ登る。
城壁上の回廊まであとわずかのところで別の衛兵が駆けつけワンタを振り落とそうとするが、ワンタが剣で斬り払い、二人でついに城壁を登りきる。
城壁の上から見るチャンチャンの市街地は圧巻だった。コスコに次ぐ世界の大都市である。中央の大通りの周りには商店や市場が並び立ち、周辺には大小の家が整然と並んでいる。遠くの方には粗末な家が無秩序にひしめき合っている。
しかしゆっくり眺めている暇はない。
ロープを外壁にかけると、ロープをたどって外壁を降りていく。
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