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「アッハッハ!」
北沢は急に大笑い。ひとりでヒーヒー言いながら大爆笑し始めた。
勇大はなんでそんなに笑われたのかがわからず困惑する。
「面白い。勇大は最高だな!」
「何がっすか?」
「お前にファッションセンスを認められて、俺は光栄だよ。流行らないネクタイピン……最高だ」
「だから何が? マジでお前のツボがわかんない」
勇大の質問には答えてくれず、北沢は笑うばかりだ。
ひとしきり笑ったあと、北沢は勇大に視線を向ける。
「勇大」
「は、はい」
「お前、俺のそばにいろ」
「はぁっ……?」
さっきまで爆笑していたくせに、急に真面目になられても勇大は反応に困る。
「お前と話してると楽しい。こういうときはなんて言えばいいんだ?」
北沢は一考したあと、「そうか」と意味深な笑みを勇大に向けてくる。
「好きだ。勇大」
さらりと言う北沢の言葉の強さに、勇大は金縛りに遭ったようだった。
ドクンと心臓がうるさくなる。黙れ、黙れと自分を律しようとしても高鳴る心臓は鳴り止まない。
と同時に勇大の記憶がフラッシュバックする。高校生のころ、やさぐれていた自分に近寄ってきた口の軽いアルファの男。
その男が軽々しく「好きだ」と言って勇大の心も身体も弄んだこと。
忘れたいのに忘れられない、忌々しい記憶——。
「ふざけるな」
勇大は必死で北沢を睨みつける。
「俺はそういうことを簡単に言う奴が大嫌いなんだよっ!」
アルファの男はみんな同じだ。
簡単に好きだと言ってオメガを惑わして、どうせ抱くのが目的で、飽きたらポイだ。
傷つくのはオメガ側だ。アルファは頭がよくて狡猾だから、勇大みたいな学のないオメガはすぐに騙される。
だから、アルファの言葉に惑わされてはいけない。その先を期待なんかしちゃいけない。
「……ごめん。今後は言わないようにする」
北沢はすぐに謝ってきた。
言ってしまったあと、勇大は後悔する。
なにもあんなに怒鳴ることはなかった。北沢は勇大を傷つけたり騙そうとしたりしようとして「好きだ」と言ったわけではなさそうだったのに。
勇大の、この考えなしに動いてしまう癖は、いつまで経っても直りそうにない。
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