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勇大がひどい態度を取ったのに、北沢は「また連絡するよ」と言って別れ際に笑顔を向けてきた。
一応社長なので、邪険にはできずに「わかりました」と返事はしたものの、勇大は戸惑っている。
職場のある駅ビルの中を通り抜けながら、考えるのは北沢のことだ。北沢のことが頭から離れない。
アルファの北沢は、もしかしたらオメガの勇大のことを狙っているのかもしれない。
北沢にあれこれ構われて、勇大は北沢が自分の番なのではないかとも思った。でも番には特別なフェロモンを感じるらしいのに、北沢からはそのようなものは何も感じなかった。
会うとちょっとだけドキドキはするけれど、北沢ほどの男だったら、番でなくても誰でもそんな気持ちになると思う。
そもそも番もちのオメガを狙っても、北沢にはなんの得もない。
番になるとオメガのフェロモンは、番のアルファにしか効かなくなる。だから勇大からは少しもフェロモンを感じていないはずだ。
もしかしたら北沢は、オメガの抑制剤を飲んでるからフェロモンが出ていないとでも勘違いしているんじゃないだろうか。勇大はもちろん抑制剤なんて飲んでない。
——好きだ。勇大。
さっきの北沢の言葉が頭から離れない。
北沢はどういうつもりであんなことを言ったのだろう。
社長の戯れか。履歴書を見て気に入ったオメガがいたら、狙いをつけて食事を奢り、あわよくば抱く。実はそういう類いの悪い男なのかもしれない。
普段気取った顔をしている北沢も、所詮はアルファだ。アルファがオメガに近づいてくる目的なんてわかりきっている。
「趣味ワル……」
勇大を選ぶとは趣味が悪い。勇大は顔の作りだけは大人しそうなオメガに見えないこともないから、きっと履歴書の写真だけで選んだに違いない。
どうせ勇大に番がいて、抱けないと知ったら離れていくだろう。それまでのあいだ、食事を奢らせてやればいい。別に勇大は騙しているわけではない。番の有無を最初に聞いてこなかった北沢が悪い。
北沢は金持ちそうだし、このくらい、そこまでの痛手にはならないはずだ。
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