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戦死したのち、恋人に逢いにきたという霊。枕元に立ち、助言をする亡き母親……。そういったうるわしい話を私は不思議に思っていた。
人は死を乗り越えてまで、他人に届けたい想いというものがあるのだろうか。歳をとってからも疑問だった。
だが、広い自室のベッドで家族に囲まれた今、ようやく答えを得たように思う。
医師に「残された日数ははっきりと教えてくれ」と口酸っぱく言ったおかげで、あと数日で死ぬと分かっている。そんな状態で。
家族を大事にすべきだったという懺悔?
いや。確かに研究職だった私は妻と過ごす時間は少なかった。二人の男の子を授かったが、子育てにも協力的だったとはいえない。
しかし、人類を救うほどの薬の開発を成しとげた。国からも栄誉を称えられたほどの偉業だ。
特許によって、莫大なマージンも得た。おかげで今の宮殿のような住まいで家族は生活できたのだ。退職後は、愛していた妻と二人で暮らせたし、懺悔を伝えようとは思わない。
残された子供らへ愛の言葉を届けたい?
いや。寿命を迎えようとするこの時に、私の遺産について口汚く争う長男、次男家族だ……。
しかも本人の目の前だというのに。
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