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彼らが帰ってから、私は衰弱した体にむちを打った。カッカとした頭からは蒸気がでそうである。
まず、ベッドから這いずりでて車椅子に乗る。机に向かい、引き出しから紙を取りだす。『全ての遺産は孫のジョセフへ相続させる』と一行書いてサインをした。その遺書を机上に置いておく。
次に、メイドを呼ぶ。小切手に数字を書いて渡した。
「これだけあれば一生過ごせるだろう。いままで本当にありがとう……。故郷に帰って……もうここには戻らないでくれ」
私の目に固い意志を見てとったのだろう。彼女は何もいわず、私にハグをしてから家を後にした。
彼女を見送ったら、開かずの間としている部屋に向かう。電子錠へ暗証番号をいれ、吸音加工をしてある分厚い扉を開く。
もう部屋のなかを隠す必要もなくなったので、開けっ放しにする。
そうして、妻のもとへと向かった。
世間的には行方不明となっている妻。青白い顔に腐敗した体をもつ妻。彼女へ近づくにつれ、酸味のある匂いが鼻孔を突きはじめる。
グルルという地を這う唸り声。首輪の鎖がこすれあう金属音が耳にはいる。
私に拘束されている妻は──ゾンビである。
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