死を乗り越えてまで

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 三十年前、人類のゾンビ化は深刻な問題だった。ゾンビに噛まれると感染して、数時間後に同類となる。彼らは次々と増えていき、世界の総人口の半数がゾンビ化した。  そう、私が特効薬を発明するまでは。  私の薬で人々は元に戻った。まさに救世主だ。私もすべての人々を救えるよう、薬が大量生産できるまで、ラボにこもって研究漬け。  だが久しぶりに帰宅したら、寝室に二人のゾンビがうろついていた。妻と、浮気相手のトムだった。  私は間男へショットガンの引き金を引いたが、妻にはできず。立ちのぼる硝煙の隙間から見えた彼女は、黄色い瞳孔をしてヨダレを垂らす、変わり果てた姿だった。  とはいえ、その面影は完全には消えさってはいなかったのだ。私には、彼女を裁く勇気を持てなかった。  そのため、この部屋にずっと閉じ込めている。妻が憎かった。罰を与えたかった。 *  人は死を乗り越えてまで、他人に届けたい想いというものがあるのだろうか。  私にでた答えは〝醜い家族に憎悪を届けたい〟だった。残念なことだが。  さあ、愛していた妻にも一仕事してもらおう。私は彼女の首輪をはずして解放した。顔を差しだして、噛まれるようにする。すぐに頬骨に痛みが走る。ガガッと骨の砕かれる音が脳にひびく。    明日……ゾンビ化した私と妻は、遺産めあてに意気揚々とやってくる彼らに襲いかかるだろう……。
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