21 私はあなたに愛を囁く

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   平穏な生活の中で思い出したのは佐治の事だった。  佐治の連絡先は変わっていなかった。突然の電話に驚いていたが、佐治はその週末、早速店に来た。  十年以上会っていなかった。相変わらず悠然とした男で、大きな花束を持って会いに来てくれた。  佐治の隣には清楚な女性がいて、彼女の腕には小さな子供が抱かれていた。  佐治はこれまで数年間海外にいて、最近帰って来たのだと話した。  柊真は佐治から妻だと紹介された女性と面識はなかったが、佐治が選んだと思うと途端に親近感が湧いた。思わずたくさん話しかけて佐治に止められた。 「ここまで来るのに車で十五分だった。これからは俺も彼女もおまえの客になる」  佐治は屈託なく笑った。そして、擦り寄ってきた子供を抱きながら、柊真の傍へ来て言った。 「おまえはあの頃、相良、相良と本当に煩かった。おまえの昔を知る奴はみんなそう言うと思う。今、一緒に住んでいると聞いた時、俺がどんなに驚いたか、おまえに分かるか。どんなにしつこい男だと思ったよ、木瀬」
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