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荷受けが終わって、段ボールはそのままの状態で、「忙しいからさ」と言って祖父は帰って行った。そそくさとその姿はこの状況から逃げたように見えた。祖父と言ってもまだ六十代前半。仕事を持っていて忙しいこともある。
玄関扉が叩かれた。柊真が出迎えると先程の喧嘩の当事者だった。喧嘩相手に殴られたと見える左頬が赤かった。
「相良春です。隣に住んでます。そんな若いのにこれから一人で暮らすんですってね。 偉いわねぇ」
どう見ても男なのに、はっきりとした女口調に困惑して柊真が黙っていると、
「一日目から困ってる? 何も出来てないじゃないの、もう五時よ。一人でやれって? 何処までも酷ね」
そして、彼は玄関に堆く積まれた段ボールを見て大笑いした。明らかに何も出来ない子供を見て笑いに来ている。
「布団だけ探したら、一緒に夜、食べに行きましょうか」
今思えば、相良の世話好きはその瞬間から発動していた。
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