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2 居残りの作法
高校入試が始まる寸前に、仕事人間の父親から海外駐在が決まったと言われた。息子の入試直前だと言うのに、母親は直ぐに帯同を決めた。
「あなたもついて来るのよ」と当然のように言う母親に、
「嫌だね」と柊真は食い気味に返した。
結果として、一人で暮らす事になった。
実家が賃貸に出されたので、学校の最寄りから二駅の街にあるアパートを借りることになった。保護者代わりの祖父母は他県の別の家に住んでいた。一人で暮らせるかどうかは未知だった。
実際に生活して行く内に、わからない事が増えていく。
柊真の母親が勝手に詰めた荷物の多くは、息子には必要性がわからぬまま段ボールに仕舞われていた。
隣室の相良は引越し翌日の朝からやって来てその段ボールを勝手に開封した。昼前には部屋がすっかり片付いて、それで相良は満足して仕事に行くと言って出て行った。
相良は翌朝、朝食にとサンドイッチを持ってやって来た。それから洗濯機の使い方を教えてくれた。
相良は身体付きも容姿も服装も男らしいのだが、振る舞いや話口調、細い手に綺麗に整えられた爪は女のそれだった。
入学式までの朝の時間は仕事前の相良を引き留める時間だった。ただ、相良が何の仕事をしているかは知らないし、出勤に焦っている様子は全くなかった。
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