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相良が泣いているのを見たのは、後にも先にもいつかのあの朝だけだった。それまでの彼はいつだって涙を流さず、人を傷付けても自分が傷付けられても平然と振る舞っていた。
また、あの夜の暗がりでもわかった、信頼以上の感情を含んだ相良の熱い眼差し。その理由に気付いたとき、柊真は肉体から何かが剥が行くような虚しい気持ちになった。
あの雨の日にその衝動をぶつける機会を得た。
愛されたい人に求められない。代わりの人間を幾ら探しても満たされない。
やはりあの時は慰めることなど出来やしなかったのだ。
「私じゃ駄目だった」
そう言いながら彼は号泣していたのだから。
一人にだけ縋っていたのだから。
気付かない方がおかしい。
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