2人が本棚に入れています
本棚に追加
世界最速の男
オリンピック男子百メートル走。
9秒33の世界記録保持者、ベン・ロンソンの集中力はいやが上にも高まっていた。
(おれは走る神)徹底的に自己暗示をかけるベン。(金メダルはおれのもの。おれは地上最速。おれはマッハの男)
スターティンググリッドにつく。かがみ込む。いよいよだ。
(おれはスピードの王。おれは走るマシン。おれはF1。おれはジェット機)
なおも集中力を極限まで持っていく。精神をぎりぎりまで追い詰める。自己の内面に深く沈潜する。
(おれは最速。おれは最速。おれは最速。おれは最速。おれは最速。おれは神。おれは神。おれは神。おれは神。おれは神。おれは天才。おれは天才。おれは天才。おれは天才。おれは天才)
「ちょっとちょっと、アンタ」
声がする。ベンは振り向く。
「へ?」
係員は言った。
「レース、とっくに終わってるよ」
最初のコメントを投稿しよう!