交差点の向こう

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   理恵とともに帰り道を歩くと、いたるところにペンキで書かれた落書きを見つける。 『自己破壊せよ!』  基本的にメフレグ勢力は少ないはずの街だが、学校に近いせいかまだこういった行いが街中でもされているようだ。  僕はひどく疲れてため息をついてから、手に取るアイスをがりっとかじる。この国の季節は秋で止まってしまったのでいつも肌寒いのだが、それでもやっぱりアイスはおいしい。 「おなか減ったね」  アイスを食べて少しだけ元気になった理恵が、前を見ながら言う。 「うん、そうだなぁ」 「今日は少し寒いから、ちょっぴり辛口のものを作るね」  僕はつばを飲み込む。決して味覚を刺激されたからではない。 「そ、そうかぁ。いやぁ、全然寒くなんてないけど。むしろ……」 「あっ、今日は安売りなんだって」  目の前のスーパーの見出しを見て走っていく。僕は今食べているアイスの余韻が口から消え去ることを覚悟した。  力なく理恵の後についていこうとすると、きゃっという理恵の声が聞こえた。  理恵の前に、ぞろぞろと男たちが現れた。数にして七人。見たことのない連中だ。全員、灰色のローブに身を包んでいる。 「お前か、救世主なんて呼ばれている少女は」 「あなたたちは……?」 「メフレグの伝道者ってとこかな」  男たちの中心にいた人物が前に出てくる。白髪交じりの短髪を手で押さえながら、淀んだ光を湛えた細い目で理恵を見据える。周りにいた通行人も、何事かと視線を投げてくる。 「この街は未だにメフレグが根付いていない。それどころか、反メフレグの聖地とまでされている」  男はかすれた声で、忌々しげに喋る。その感情は直接理恵にぶつけられている。 「その原因は、お前にあるのだよ。反メフレグの救世主」  指さされた理恵は、動じることなく真っ向から男たちと対峙している。  僕は注意深く男の挙動を観察しながら、力を使うかどうか迷っていた。  理恵には見られたくない。どうにかして、他の場所に誘導するか。 「単刀直入に言おう。今すぐ、メフレグに改宗するんだ。無意味な救世などやめろ」  男は周囲の通行人に聞かせるかのように、大声で話し始めた。 「お前たちも見たはずだ。二年前、確かに神は地上に来たりて、こうおっしゃった。この世界は間違って生み出された、だから世界は憎しみと悲しみに満ちていると。神はこの間違った世界を滅ぼし、我々の魂を解放なさろうとした。大いなる剣が太陽を突き刺し太陽はその活動を止めて、世界は救われるはずだった」
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