交差点の向こう

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 男は頭上の太陽と剣を仰いだが、次の瞬間には声を荒げて前に向き直った。 「しかし! 愚かな各国の指導者たちはこの腐った世界を守るために神に刃を向けた。あろうことか、核まで使用して神を殺そうとした。神は彼らの愚かさに呆れ果て、姿を消された。しかし、真実は覆せない。この世界は間違って生み出され、この世界が存在する限り、我々人間はその不完全さに苦しめられ続ける」  そうして男はその言葉を口にする。 「自己破壊せよ! この世界を、己を壊し、苦しみから解放されるのだ! 政府はメフレグ主義を取った街のライフラインおよびインフラをストップするなどと対抗しているが、恐れることはない。政府など、我々の崇高なる力の前に何の意味もなさない。そう、ソフィアがいる限り」  男は両手を広げる。 「私も、ソフィアの一人だ」  周囲が一気にざわつく。みんな、動揺を隠せないでいる。  ソフィアがこの街にやってきた。  僕も少しばかり警戒する。この男の言うこと、どこまで本当なのか。もしも、本物のソフィアだとすれば……。 「真実も、力も我々メフレグの手の中にある。それでもお前たちはなぜ、メフレグを信じない? なぜ、間違った世界の規律に縛られている」 「だって」  今までずっと黙っていた理恵が、言葉をこぼした。その声は少し震えていた。分かってる。男たちに恐怖しているわけでないってこと。ただ、君は本当にそう想い、そして願ってるんだろう。 「だって、私たちはこの世界に生まれたから」  僕は目を閉じてその言葉を噛みしめる。 「間違った世界に生まれたとしても、間違った命だとしても、自分たちの世界を愛して生きることは、間違っていない」  男は呆れ果てたように、首を振った。 「悪魔が生み出した世界を賛美するなど、悪魔の手先以外何者でもない」  男が右手を上げると、他の男たちが周囲の住宅の窓ガラスを割り始めた。わっと混乱に陥る周囲の人々を尻目に、男は笑う。 「うろたえるな。この世界のものを破壊することは、愛、神への忠誠の証、これこそメフレグなのだよ」  理恵は目を閉じ、澄んだ声で小さく呟いた。 「愛は隣人に対して害を与えません」※  そして、奇跡が起こる。  暴動を起こしていた男たちの動きがぴたりと止まり、懺悔を始めた。 「わ、私はなんてことを……」 「お許しください……、お許しください……!」  人格が変容してしまったかのような彼らの様子を見て、男は眉一つ動かさず理恵をじっとにらみつける。 「それが、お前の、パナリオンとしての力。救世主の福音、とやらか」  男の表情が、皮肉なものへと変わっていく。 「そうやって、道徳の奴隷を作っていくわけか」  理恵は何も言わない。 「また、来る」  そう言い残して、男は立ち去った。他の男たちは残され、自分が破壊したものを何とか修理しようとしていた。  たった一人の少女が男たちを改心させた奇跡を目の当たりにした人々が、押し寄せてくる。
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