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しかし、櫻子は筋肉第一の残念な女なのである。
日下部では妄想が膨らまない。
筋肉質な体を思う存分触ることもできなければ、抱えてもらうこともできないだろう。
それ以外だって――。
残念そうな父にごめんなさいとしょんぼり顔を作ると、「そうだな、色々な男を見る必要があるな」と意見を変えてくれたのでホッとする。
櫻子を溺愛する父でよかったとこの日は強く思ったのだが……彼女の穏やかな日々はなかなかやってこなかった。
父が週末になる度に部下を連れてくるようになったのだ。
皆、父が見立てただけあって人柄がよく一般的には好まれそうな男性だった。
しかし、どの男性も線が細く櫻子のお眼鏡には叶わない者ばかり。
彼女にとって無駄な時間が積み重なっていくことに、そろそろストレスを感じていた。
どうしてパパの好みはこうも違うの……こうなったら、自分で探すしかないわ!
妙案を思い付き、自室で一人飛び跳ねた。
ウキウキとしながら普段の癖で引き出しの中からペンとノートを取り出し窓の外を眺める。
好みの体を目撃すると、筋肉と自身が触れ合う様々なシチュエーションが浮かぶので、忘れぬよう書き付けているのだ。
ノートの中身は誰にも言えない櫻子の願望が詰まっていた。
ちょうど家の下をほどよい筋肉の付いた男性が通り過ぎていく。
あの人なら結婚生活も楽しめそうだわ……と考えた時、基本的なことを忘れておりハッとした。
一体筋肉男性と、どうやって知り合えばいいの……?
これまで観察ばかりしていた櫻子にとって、それはかなりの難題であった。
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