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突然のことに何も言えず小さく首を振ると、男性は「少し触れますね。俺に掴まってください」と櫻子の腰と脇下に触れ立たせようとする。
ありがたいと思ったものの、ワンピースが破れていることを思い出し「あの……!」と声を上げた。
彼は少し驚いたように目を瞬き「嫌でしたか?」と手を引っ込めた。
「違うんです……その、服が破れてしまっていて……」
異性にそれを話すのは勇気が言ったが緊急事態である。
正直に打ち明けると、彼はあぁと呟いてから自身の着ていたシャツを脱ぎ、櫻子の腰にさっと巻いてくれた。
その時、櫻子の視線は一点に集中する。
「俺の服で申し訳ないですが、応急処置です」
その親切に礼をすることを忘れ、彼の腕を凝視していた。
引き締まった腕には逞しい力こぶが乗っているではないか。
力強さを感じる立派な筋肉。
一見細身にも感じるが、普段から鍛えていることがありありとわかる体つきだ。
なんて理想的なの……!
櫻子の目は無意識に輝いていて、つい今の今まで落ち込んでいた者とは思えない。
反射的に彼の腕に手を伸ばす櫻子がいて、「あの……どうかしました?」と言われてハッと引っ込めた。
目の前の好物を触りまくりたい。
それにはむはむと噛んでみたい……。
頭の中で男性の腕に飛びつく自身の姿を思い浮かべ、興奮が止まらなくなった。
今、時が止まったとしたら間違いなく彼の腕を好き勝手に堪能しただろう。
だが実際は難しい。
さすがに慎みは持ち合わせているので「すみません……立ち上がれそうになくて」と尤もらしいことを言って誤魔化したのだった。
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