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櫻子のおねだりに父はめっぽう弱い。
少し顎を引いて可愛らしく願うと、デレッと頬を緩め要望を叶えてくれるのだ。
といっても、櫻子は昔から何でも周囲が先回りして物など与え、欲求を埋めてくれていたこともあり、物欲は薄く滅多におねだりすることはないのだが。
櫻子はというと、可愛いと美人のどちらも兼ね揃えた容姿をしている。
大きなアーモンド型の目と小さいが整った鼻筋にぷっくりとした赤い唇。
肌は白くスベスベと滑らかできめ細かい。
顔の形もよく精巧な人形のよう。
また、小柄なわりにまろみのある体つきは女性らしいうえ、性格も大人しく見られがちで庇護欲を掻き立てられるのだ。
本人は女子校育ちであるし、家族に溺愛され守られてきたので、異性関係に疎く気付いていないが、彼女に関わった人間は、誰もがほのかな恋心を抱いてしまうほど魅力的だった。
ここのところ立て続けに紹介される男性たちもそれである。
櫻子の父親に、また彼女に会いたいと願う者ばかりで、その中でも日下部は特に強く訴えているのだが、今の彼女はまだそれを知らない。
そして今、男性に精一杯のおねだり顔をしてみせているが、櫻子としてはこれが他の者に通用するかは不明だった。
彼は無言なので、どう感じているのか不安ではあるが、どうか拒まないで欲しいと見つめる。
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