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次にシルクのパジャマを脱いで、前ボタンタイプの淡いブルーの半袖ワンピースを身に着ける。
めんどくさがりな櫻子は、基本的にひざ丈で無地のワンピースを着ることが多い。
夏は一枚で着られるし、春秋はカーディガンを羽織ればいい。冬はコートやジャケットを合わせるのみなのだ。
衣類はすべて長年家に給仕している家政婦の黄が購入してくれるので、自身で買い物をしたことは一度もなかった。
彼女は櫻子と同じ歳の一人息子がいるのだが、男の子の上まったくオシャレに興味がないそうで櫻子の衣類選びを好んでやってくれる。
ウィンウィンな間柄なのだ。
また、彼女は日本国籍の中国人で日本語、英語、中国語にフランス語と四か国の言葉を話すことができるクァドリンガルだ。
黄のおかげで櫻子は日常会話レベルであれば英語と中国語を話すことができるので、彼女を尊敬していた。
最後に鏡を見ながら胸にかかる長さの髪を簡単に手櫛で整える。
ふんわりと緩くカールのかかる髪は、扱いやすくて気に入っているが、それは櫻子だけでなく父も兄姉も同じで、皆、彼女の髪を触るのが好きで幼い頃から誰かに頭を撫でられることが多い。
自室を出るとすぐ、黄が立っていた。
支度の遅い櫻子の様子を見に来たのだろう。
「櫻ちゃん、準備はできました?」
「黄さん、ずっと待っていたの?」
「いまここへ来たところですよ」
黄は小さく横に首を振って微笑みながら否定するが、おそらくしばらく待っていたのだろうと思う。
「ごめんね、待たせて」
「いいえ、今来たばかりなので大丈夫です。それより、そのワンピースお似合いですね」
黄はフッと笑い、櫻子を上から下まで観察するように見るので「えぇ、これすごく着やすくて気に入ったわ。ありがとう」と微笑み返した。
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