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櫻子は彼の筋肉ぴったりと寄り添い、彼が何も言わないことをいいことに、それに抱きつくような格好で歩き始めた。
その上、少しでもこの時間を堪能できるようにあえてゆっくりと歩く。
二人が向かった先は、近くに建つ複合施設だった。
中へ入ると入口からすぐのところに空いたベンチがあったので、彼は早速櫻子を腰掛けさせようともう片方の空いた手を彼女の背に回し座らせてくれる。
だが、櫻子はまだ離れがたくギュッと掴んだままだ。まだ堪能していたいわ、と。
彼は少し照れ臭そうな困ったような表情を浮かべたが、拒まず隣に腰掛けた。
まるで彼氏彼女のような近さであるので、周囲からは二人が初対面の男女だとは気付きもしないだろう。
すべては櫻子の欲望をぶつけているだけの間柄だなんて。
彼は一八十センチほどあるに、長いコンパスを最小限に縮め、ここに来るまで櫻子のペースに合わせて歩いてくれるような気遣い屋だった。
それに、櫻子のワンピースを破った原因である潰れた缶を拾い、道すがらゴミ箱に入れるような地球にも優しい性格であるようなので、自身の欲望をぶつける相手にしては、申し訳ないなと思うものの抗えない。
これほど自身が欲にまみれた人間であるとは今日まで知らなかった。
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