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二人はかなりの近さにいるというのに無言でいるという異様な状況。
櫻子は積極的に話題を振る方でないし、何より今の至福の時間に浸っていたためである。
だが、いよいよ男性が耐えられなくなったのか口を開いた。
「気分はいかがですか?大丈夫ですか?」
櫻子は彼の気遣わしげな表情をまともにみて、そろそろ限界かなと後ろ髪を引かれる思いで絡めた腕を抜き、おっとりと微笑んでみせる。
「……長く甘えてしまってすみません。おかげで(気持ちが)よくなりました。ありがとうございます」
「いえ、よくなったならよかったです。あ、ちょっと待っててくださいね」
男性は安堵したような笑みを浮かべたので、櫻子も引き続き微笑むが、突然彼は忙しない様子でどこかへ行ってしまった。
もしかして……これはもしかするとだ。
一人残された櫻子は、あまりの痴女っぷりに彼が逃げ出したのだと考えてしまう。
見ず知らずの女から密着されるのだ。
逆の立場からすれば恐怖でしかない。
冷静になった今、ようやく自身の行動が異常であったことに気が付いたのだった。
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