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櫻子は、やや日に焼けた感じのする洋に「洋君は半年前より少し焼けた?」と尋ねると、話題は清子と彼の近況へと移ったので、密かに胸を撫でおろす。
二人の楽しそうな海外での生活について、うんうんと相槌を打ちながら聞いていると、突然父が驚くことを言った。
「そろそろ櫻子にも結婚相手を探さないといけないな」
「……結婚相手?」
櫻子はまだ学生の身。いくらなんでも気が早すぎではないかと思う。
「櫻子は控えめな性格で男慣れしていないから、いい相手をパパが探してあげたいんだ。今のうちに見つけて、大学を卒業する頃に結婚すればいいさ」
「そんな、私、まだ結婚なんて全然考えられない……必要ないわ」
それは半分誠で半分嘘だった。
別に結婚をしたくないわけではない。
だが、父の選ぶ相手と結婚することが考えられないのだ。
イヤイヤと首を横に振った。
「ハハッ、心配しなくても大丈夫だ、パパに任せなさい。いい男を探すから」
絶対に任せたくないんですけど!
櫻子は更に首を横に振り続けるが、父は「櫻子は照れ屋だな」ととんちんかんなことを言う。
「パパの部下ですごくいい男がいるんだ。今度家に連れてくるから軽い気持ちで一度会ってみなさい」
父は大手ゼネコン会社琴吹組のトップであるので、彼の言う部下のいい男はおそらく一般的には優良物件なのだろう。
だが、櫻子にとっては、少しも魅力を感じるものではない。
「私、忙しいから無理そう」
「おや?櫻子は何か始めたのかい?黄さんからは報告は受けてないが」
櫻子の基本のスタイルは大学と家の往復のみで、たまに友人と出掛けることもあるが、それは月に一度か二度あるかないか。
咄嗟に嘘を吐いたものの、インドアな櫻子をよく知る父にそれが通用するわけがない。
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