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櫻子はスンとした顔で「特に何も始めたわけではないけれど、課題とか忙しいの」と伝えた。
「なるほど、それなら夏休みはどうだい?」
大学の夏休みは今月末から二ヵ月ほどであるので、さすがに毎日課題に追われることはないし、二年生なので就職活動などで大変な時期でもない。
そもそも櫻子の将来は、琴吹組に入ることが既に決まっていて、就職活動をする予定はないのだが。
それは、父が櫻子を手離したくないために勝手に決めたことだったが、特にやりたいことなどない彼女はそれに強い反発心などなかった。
「うん、時間が合えばね……」
「そうだね、櫻子の都合のよい日に合わせて連れてくるよ」
「……わかったわ」
長期休暇は大体家にいるので、時間が合わないことの方が稀だろう。
この時の櫻子は、もうどう反論しても無理だと諦めにはいっていた。
それに、もしかすると、もしかするとだ。
父の連れてくる男が櫻子の求めているタイプかもしれない。
そう考えると楽しみにも思えてくる。
この日から二週間後、父が例の部下を連れてきて、櫻子は顔を合わせることになったのだった。
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