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突然昨晩、以前話した部下を連れてこようと思っていると言われ、咄嗟に逃げる口実を作れなくなった櫻子は、早朝より起こされ居間のソファに座り来客を待っていた。
夏休みに突入したばかりで趣味を満喫しようとしていたのに、これから始まる憂鬱な時間を思うとため息が出そうになる。
それに比べ、父はご機嫌そうにニコニコと笑みを浮かべている。
「今から紹介する部下は日下部君といって、今年度から専務秘書として異動してきたんだ。二十八と櫻子より少し歳が離れているけど、若々しくて見た目もいい男でね、賢くて機転も利き人柄もいいんだ」
櫻子にとって、年齢も見た目も頭の良さも人柄も、それほど気になる要素でない。
もっと歳が離れていても、それほどカッコ良くなくても、少々意地悪でも何ら問題はない。
もっと別のことが知りたいんだけど……心で言いつつも、涼しい顔でそうなのねと微笑んで見せた。
「それから実家は両親ともに名門校の教師で、しっかりと教育されているんだろうね、腰が低くてとても礼儀正しいんだ」
それについてもどうだっていいのだ。
あまりにも目に余る行動を取るようならNGだが、適度に良識がある者であればいいし、親の職業なんて、まったく重要ではない。
そもそもトップの父に非礼な態度を取る者の方が少ないだろう。
無駄な時間だわと言いたくなるのを抑えて、静かにティーカップを持ち上げ紅茶を飲んだ。
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