あなたを観察したいのです

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「あぁ、あと浮ついた噂とかもなく、硬派な男だよ。浮気などで櫻子を悲しませることはないはずだよ。その辺りはしっかり確認したからね」  それは最悪な情報である。 真面目な男なら、櫻子の趣味に付き合ってくれる可能性は低い。 勿論櫻子の趣味を明かして共有するつもりはないのだが、密かにあれこれ愉しもうと妄想を膨らましているので、そんな相手嫌だわ!と心で叫ぶ。 あまりにもふしだらな性質であるのは考えものだが、多少思考は柔軟であってほしいのだ。  そこに家のチャイムが鳴り、日下部の訪問を知らせた。 櫻子と父のやり取りを穏やかな表情で見守っていた黄が、居間から退室し小走りで玄関へと向かった。 黄は一般的な思考の持ち主だ。 テレビの中の流行の俳優やタレントを見てカッコいいと思えるようなので、父が褒めちぎるいい男がどれほどの者なのか気になっているに違いない。 「緊張しなくてもいいからね、今日は顔を合わせるだけでいいんだ。櫻子に時々話を振るかもしれないが、パパが話をするからね」 「……えぇ、わかったわ」  父の話から男にまったくいいい印象は持てなかったが、幼等部の頃から女子しかいない環境で育った櫻子にとって、大人の男と接することについては緊張することだった。 今日初めて父の意見に心から同意して、姿勢を正す。  日下部が居間に現れたのはそれから数分後。 お邪魔いたしますという日下部の声に立ち上がる父に続き、櫻子もその場に立ち、彼を一瞥した後に小さく頭を下げた。
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