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父はそんな櫻子なんてお構いなしに「いいんだよ、櫻子が可愛いのは本当のことだからね」と更に親バカっぷりを披露し笑っている。
日下部も微笑み返しているが、大変迷惑をしているに違いないので、櫻子は「もう、やめて……」と小声で言いつつ父の腕を軽く引いた。
黄がお茶を運んできたタイミングで、三人はソファに腰を下ろす。
日下部の位置は父の前だった。
彼の持参したカステラと黄が用意した菓子を彼女がテーブルに並べながら、櫻子に目配せする。
“いい男でよかったですね”と言っているのがありありとわかる。
適当に微笑んでおいたが、彼女がどうとったかは不明だ。
「櫻子、こちらが日下部君だよ。話した通り彼はとても有能でね、目をかけているんだ。どうだい?いい男だろう」
ハハッと父が笑うと、日下部がもったいないお言葉ですと恐縮している。
「初めまして。日下部彰と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「初めまして、琴吹櫻子と申します。本日はわざわざお越しいただきありがとうございます」
櫻子が頭を下げて日下部を見つめると、彼は少し慌てた様子で「こちらこそ、お招きにあずかりましてありがとうございます」と答えた。
「櫻子、緊張しなくていいからね。日下部君は丁寧で穏やかだから警戒することはないよ。日下部君も私の前だからって気を遣わないで大丈夫だからね。櫻子は女子校育ちで男慣れしていなくてね、その上おっとりしているから、どうか気さくに話かけてやってくれ」
櫻子と彼は小さな笑みを浮かべた。
父の前で溺愛する娘に気さくに話すなんて無理な話だろう。
意外と早くお開きになるかもしれないとこの時は期待していた。
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