雨上がりの帰り道

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雨上がりの帰り道

「……うん、そうみたいだね」  そんな私の声に、淡く微笑み答える先輩。……いや、まあそれはそうですけど。なにせ、もう夕暮れ時――予報では、もうとうに晴れ模様の時間で。それでも、ついさっきまでは降っていたようにも思えますが……いずれにせよ、もう傘は―― 「……へっ?」   すると、昇降口を出た空の下――鬱々とした私の頭上を、ふと何かが覆って。……いや、何かは分かっています。いますが―― 「……あの、雨はもう――」 「ああ、これ日傘だよ」 「……へっ?」 「防水加工してないしね」  ……えっと、どういうことでしょう? そもそも、雨を凌ぐために作っていたのでは―― 「……まあ、嫌なら無理にとは――」 「ああいえ、そうではなく! そうではなく……その、お邪魔します」  慌ててそう言って、居場所を確保する私。優しい純白(しろ)に覆われた、彼の隣を。見ると、心做しか少し頬を染めつつ目を逸らす先輩。そんな彼の様子に、私は―― 「……ふふっ」 「……その、あまりくっつかれると恥ずか――」 「その恥ずかしいシチュエーションを用意したのは貴方でしょう?」 「…………」  彼の羞恥などお構いなしに、さっと彼の腕を取り絡める私。いや、そもそもそのシチュエーションを用意したのは貴方でしょう? きちんと、最後まで付き合ってもらいますからね。  その後、暫し他愛もないやり取りに花を咲かせつつ歩みを進める私達。純白の和紙と夕陽が鮮やかにコントラストを織り成し、何とも言えない幻想的な雰囲気を作り出しています。 「……ねえ、先輩」 「ん、どうしたの玲音(れいん)ちゃん」  そんな夢のような帰り道にて、ふと先輩の名を口にします。すると、いつもの優しい微笑で応じる先輩。そんな彼に、少し悪戯っぽい笑顔で言葉を紡ぎます。 「――また、共同作業しましょうね?」  
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