作業開始です

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 ――ともあれ、そんなこんなで作業開始からおよそ一時間。 「……うん、これで完成。お疲れさま、玲音(れいん)ちゃん」 「……はい、先輩こそお疲れさまです」  傘の仕上がりを確認しつつ、柔らかな笑顔で労ってくれる先輩。……まあ、ほぼ先輩の功績なんですけどね。ただ、それはそれとして―― 「……あの、先輩。傘って、こんなすぐに出来上がるものなんですか?」  そう、率直な疑問を口にします。全くの初心者ゆえその辺りの事情は存じないのですが、流石に―― 「……うーん、本当にきちんと作るとなれば数ヶ月くらい掛かるけど……でも、これは簡易版だから」 「そんなのあるの!?」  いやそんなのあるの!? いや、仮にあったとしても一日は早すぎない!? ちゃんと作ったら数ヶ月かかるんだよね!? ……うん、今更ながらとんでもない人だってことは改めて分かりました。……うん、これでまた一つ、先輩のことを知―― 「…………あ」  そんな暖かな心地が、ピタリと途切れる。そして、目に入った光景(さき)――もうすっかり朱に染まった窓の外を眺めつつ、ポツリと声が零れます。 「……雨、止んじゃいましたね」
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