瓶詰め煉獄

3/4
前へ
/4ページ
次へ
**** 『これを読んでいるあなた。どうか私の罪深い話を聞いてください。  私は元々とある国で神殿に通っている、従順な神の使徒だったのです。弟のアルと、毎日毎日神に祈りを捧げながら食事をしていたのです。  それがある日。私たちは船に乗ってとある島にある神学校に行くことになりました。私たち姉弟は身寄りがありませんし、結婚するための結納金を支払うことができません。となったら、もう神様と結婚するしかないと、姉弟ふたり揃って神殿に入るための勉強をしに行くところだったのです。  船はそんな中、鯨とぶつかりました。船は傾き木っ端微塵。神学校に通うはずだった生徒たちも次から次へと海に落ちてしまい、私たちは船の残骸にしがみついて、互いに励まし合いながら、なにもない海原で必死に陸地を目指して泳いだのです。  陸地が見えたとき、私たちは涙を流しました。やっと助かると。  ですが、そこは無人島でした。獣すらいない、孤島だったのです。私たちは打ちひしがれましたが、目の前でたくさん人が死んだのです。私たちは洞穴に向かってそこを神殿に見立てて祈りを捧げることにしたのです。  とにかく服はびしょ濡れで、私たちは服を脱いで引っ掛け、どうにか火を調達するしかなくなったのです。乗ってきた船の残骸はかろうじて乾いていましたので、それを持っていたステンドグラスの破片を当てて光を集めて燃やし、火種をたやさぬよう、その場にあったいろんなものを燃やしました。  ポケットにかろうじて入っていたカチカチの黒パン。それは潮水でふやけてしまい、お世辞にもおいしいものではありませんでしたが、背に腹は変えられません。私たちは半泣きでそれを分けて食べることしかできなかったのです。  次の日から、私たちはひと晩乾かした服をなんとか着て、この島から脱出する方法を探しはじめました。  しかしこの孤島、燃えやすい種をつける低木はあっても、舟をつくれるほど丈夫で太い木が一本も生えていないのです。私たちは火種を持ってきて、のろしを上げることにしましたが、舟は一向に迎えに来てはくれません。  食事は浜辺を歩いて貝を拾えばなんとか賄えました。浅瀬でなら魚も獲ることができました。それを火で焼いて食べれば、飢えを凌ぐことはできたのです。  食が満たされたら、あとは助けを待つ間眠るだけだったのですが、だんだんアルの様子がおかしくなっていったのです。 「姉さん、僕はこの島に来ておかしくなってしまったんだ」  ある日突然アルはそう言いました。ここには薬がありませんし医者もいません。もし病気になったら死ぬしかない中、私はアルの告白に顔を曇らせました。 「体が悪いの?」 「胸がずっと痛いんだ」  最初は私は、アルの体の心配をし、なんとか草木を見繕い、熱さましに効く薬草をすり潰し、それを貝に塗って焼きました。 「あまりおいしくないかもしれないけれど我慢してちょうだい。熱さましにはこれが一番いいから」 「姉さん、僕は心臓が痛いだけで、熱はないよ?」 「胸が痛いのはよくないわ。これを食べて、滋養をつけて」  アルは悲しそうな顔をしましたが、私は最初は意味がわからなかったのです。  ただ、たしかに体自体にはなんの問題もなく、私の拙い看病も三日ほどで終わりを迎えたのですが、だんだん彼の訴えた胸の痛みに心当たりがあることに気付いたのです。  彼が私に向ける視線は、だんだん湿度を帯びてきたのです。  私たちの神は家族同士の恋路を許してはいません。ですが。  自殺もお認めになってはくださらないのです。  どうかこの瓶を拾ったあなた、ナイフを一本持ってきてください。  そしてそこで横たわっている私たちに振り下ろしてください。  罪深い私たちは、煉獄に落ちるしかないのです。  これもきっと私たちが聖書を破いて焼いてしまった罰なのでしょう。 どうかこの手紙を読んだ方へ。助けてください。』
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加