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長い黒髪をゆるくくくって、うさんくさい眼鏡とうさんくさい笑顔のおじさん。
こうして客観的に見ると、カマーベストにアームサスペンダー、すらっとしたトラウザーズといったその立ち姿は、本当に綺麗だ。
宮廷の社交界とかで、色んな貴婦人とダンスしたりしたことはあるのだろうか。
シトラスさんが着ていたような魔術師の礼服を纏って、荘厳に佇んでいたこともあるのだろうか。
――昔は、この人はどんな人だったのだろうか。
心の準備ができたら過去を教えてくれると約束してくれた。
そのことを思うと、胸の奥がぎゅっと甘いような、温かい気持ちになる。
シトラスさんのような親しい弟子ではなく、あくまで契約親子の私に。
嬉しいな。
「にみゃあ……」
一緒に過ごして親しくしているようで、契約だけの関係だと思っていた。
思い込もうとしていた。だってまた、娼館の時のように――居場所を失うのは、つらいから。
本当の親子のように、ほんとは、これからもずっと――
そんな物思いは、裏口から聞こえる元気なあいさつですっ飛んだ。
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