龍の嫁取りの物語

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 当時の私は今よりもずっと未熟で。どうして同じ顔をした女の子がいるのか、わからなかった。  その子がおこなった意地悪に対して、女中に八つ当たりされるのかが理解できなかった。叩かれ、つねられ、たくさんの痣を作って、痛みで泣いても誰にも声をかけられない。自分は幽霊なのかもしれないと半信半疑だった。  七歳を境に、水上の娘は巫女としての振る舞いを覚えることになるらしい。ようやく己の立場をきちんと説明され、私は禁忌とされる双子の片割れであり、有事の際の代理なのだと告げられた。  ひとの子は弱く、七つまで生きられるかわからない。  そんな昔ながらの教えにより、私は七歳までは生存を許されたが、それを超えるときになって、生死を選択することになったのだ。  我儘姫の片鱗を見せていた綾子。  実の親ですら時折持て余した娘が、この先きちんと巫女として振る舞うことができるのか。  やっと繋ぎを得た天沢家との縁を切られないためにも、私は万が一のための予備として生きることとなり、手始めの仕事として『七つの巫女はじめ』に駆り出された。  それは、巫女として認められるか否か龍神へ問う、ひとつの神事らしい。  姉は泣きわめいて拒否し、「そんなのアレにさせればいいじゃない」と私を指さしたことを覚えている。  その日は厚い雲に覆われて、星が見えない夜だった。  付近にガス灯はなく、頼りの月明かりも届かない暗闇のなか、引きずられるように洞窟へ行った私は、先代の巫女である母に手順を説明され、冷たい水を何度も何度もかけられた。  ガタガタと震える私に対してなんの感慨もないのか、手桶を押しつけ、自分でやるように強要される。  逃亡を阻止するためなのか、重りのついた鎖を両の足にそれぞれつけられ、私はたった独りで残されたのだった。
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