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書かれた文字を、男の聖女は、あり得ないものでも見るかのような恐怖の混ざった眼で凝視した。
――混乱していらっしゃる。
チレはそう感じた。しかしそれも致し方ないことだ。
今まで召喚の祈りによってこの世界に降臨した聖女は一様に、自分に起こった出来事にまず動揺した。ある日突然、見知らぬ世界に強制的に移動させられたのなら誰だって恐慌状態に陥ってあたり前だ。
そしてこの聖女もその例に漏れず、非常に困惑しているようだった。
神官は最後に、一枚の木の板を差し出した。そこにはこう書かれている。
『心の中で、我々と言葉が通じるように、強く念じてください。それでお話ができるようになります』
おずおずと示された文章に、男は眉をひそめた。疑うような視線を神官らに向けて、いきなり両手を伸ばすと、なぜかひとりの神官の顔をむんずと掴んだ。
「えええっ、いてててててっ」
神官が叫ぶ。周囲の者らが驚いた声をあげる。
「ひえええっ」
「な、何をいきなり」
「‰¢%、Å#ー?£☆? 仝○〒〃、Ω‡※◇☆?」
聖女は大声で怒鳴って、神官の顔を上に引っ張りあげた。はずみで神官の身体がぶんぶん揺れる。動揺した周囲がぴぃぴぃぎゃあぎゃあ騒ぎ出す。
首がもげるほど引っ張られた神官が泣き出して、それでやっと聖女は彼を解放した。パッと投げ捨てられた神官が床をゴロゴロと転がっていく。近くにいた神官がそれを助け起こした。
聖女は憤懣やるかたないといった様相で周囲を睨め回した。神官らがそれに怖じ気づきながらも震える手でもう一度『心の中で~』と書かれた木の板を聖女の前に掲げる。男の聖女はそれを確認し、怒りを湛えた表情で静かに目をとじた。
「££㏄…!」
明らかに悪態と思える台詞をもらして嘆息する。そしてうんざりした顔で、こうささやいた。
「まじ意味わかんね」
先刻とは違う言葉の響きに、一同が感嘆の声をあげた。
「おおおおっ。我らの言葉だ」
「無事通じましたっ」
「よかったっ、よかったぁっ」
神官らが手を取って喜ぶ。万歳して涙ぐむ者もいた。ホールが歓喜の嵐に包まれる。
その喧噪の中から、おずおずと神官長が前に進み出て、上目で聖女に問いかけた。
「あの……、よろしいでしょうか?」
「は?」
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