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「多分、えっと、怪我をしたときもそうだったが、身体の内側というか、粘膜的な接触が必要なんじゃないかと思うんだ。だから、そういうところを重ねあわせれば、魔力も流れてくんじゃないかと、考えてる」
「は、はぁ、ね、粘膜、ですか」
チレも全身が熱を持って、顔がポッポッとしてきた。
「で、では、その、ハクト様にお任せいたします。異世界人のやり方は詳しくありませんので」
「バカ言え。俺だって詳しくなんかねーぞ」
「え? そうなのですか」
チレは目をパチクリさせた。
「ではハクト様は童貞ということですか?」
「ばっ、バカヤロー、そっ、そんなこと、はっきり口にすんなっ」
ハクトは目に見えて焦った様子で言い返した。
「お前うるせえぞ。何だよ、セックスには過剰に反応して恥ずかしがったくせにドーテーは簡単に言い放つとは」
「ハクト様こそなぜ童貞に過剰反応なさるのですか。童貞はいいことです。心も身体も清くなければ童貞でいることはできません。この世の淫欲から身を守り汚れを知らずにいるので、童貞は高貴な存在なのですよ」
「ドーテードーテー繰り返すな」
ちょっと傷ついた顔になって文句を言う。どうやら異世界人とは考え方が異なるようだ。
「わかりました。すみません。もうハクト様には童貞と申しあげません」
「おう」
頬を赤らめた童貞ハクトが偉そうにうなずいた。
「じ、じゃあ、ちょっとだけ、試してみるぞ」
「はい。わかりました」
チレはしゃんと背筋を伸ばして、ハクトを見つめた。
「目ぇとじろ」
「はい」
言われたとおりにする。すると咳払いをしたり、服を手で撫でたりする音が聞こえてきた。やがて前振りが終わり、相手の両手がチレの肩にあてられる。それに少しだけ緊張した。
「……いくぞ」
「はい」
静かないっときがすぎた後、唇にふんわりとやわらかなものが触れてくる。押しつけるようにされたその物体が、ハクトの唇なのだと理解するのにちょっと時間を要した。
――あ、キス、している。
温かな唇はわずかに震えていた。
チレがそっと瞼をあげる。すると目の前にハクトの顔があった。相手は目をとじていた。黒い睫がかるく弧を描いている。それをぼんやりと見つめた。
異世界人は毛の生えている場所がとっても変。ルルクル人とは全然違う。
けれど、恋をしたりキスをしたりするのは同じだ。そして愛しあう行為があるということも。
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